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一度庁舎に戻った方がいいのだろうかと雨切が尋ねるので、終了報告も兼ねて風見が降谷に電話で一報入れると、予想に反して「直帰でいい」と返された。
「直帰でいいそうだ」
「はぁ、じゃあタクシーつかまえましょうか」
「あぁ」
料亭のタクシーは他の客人用に、と配慮して少し歩き大通りへ出ることへした。二人分の黒いトレンチコートが冬の夜風に揺れる。歩道の向こう側で往来する車の数も、すれ違う人々の数も少ない。そして、すれ違う人は大概、アルコールの香りを帯びていた。
タクシーを捕まえようと通りを気にしていると、ふと、独特の香りが鼻をくすぐった。
「風見さん」
「なんだ」
「お腹空きませんか」
ちらり、雨切が頭上に視線を持ち上げれば、白い息の向こう側で風見の、ほんの少し気まずそうな表情が見えた。
「
そういやこの人、鳴らしてたな。と雨切はその時に思い出した。
「いえ、そういうことではなくてですね。ほら、我々もう直帰OK出たじゃ無いですか」
「出たな」
「風見さん彼女いらっしゃいましたっけ」
「いないな」
「夜ご飯どうするつもりでした?」
「…………聞くな」
ぐ、と視線をやや逸らす風見は眼鏡を押し上げる。
「焼肉、行きませんか」
雨切は、反対車線側にある深夜営業の焼肉屋を親指で示しながら、その眼鏡を見上げる。
風見は黙る。
「………………」
「じゃ、私は行ってきますので。冷めたコンビニ弁当一人で楽しんでくださいお疲れ様でした」
「待て待て待て」
「何ですか」
風見は、何か考えあぐねた様子のまま口を開けたり閉じたりを繰り返している。
やっとのことで飛び出た言葉は、困惑した表情と一緒だった。
「いいのかそれは」
「はい?」
「いや、だから」
「先輩が何に心配されていらっしゃるかわかりませんが、夜の誘いでは無いですよ」
「お前が焼肉と一緒に夜の誘いを俺にしてくる事は1ミクロも考えてない」
「それはそれでちょっとどうかと思うんですけど、まあいいです。とりあえずお腹空いたんで行きましょう」
「お前誘い方雑だよな」
コンビニ弁当に私の誘いが負けるのはちょっと、とマフラーの下で口を曲げる雨切に、風見が「悪かった」と言葉とは裏腹に笑う。
横断歩道までの道を歩く二人の横を、空席の赤い字を帯びたタクシーが通り過ぎて行った。
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桜(プロフ) - 全部面白い!続き読んで見たいです!皆さん、頑張って下さい! (2018年9月24日 20時) (レス) id: 4b63d11e04 (このIDを非表示/違反報告)
i(プロフ) - 正直、どストライクです…!時間ごとにそれぞれの贅沢が詰め込まれていて、読んだことのない作品の主人公にもとても惹かれるものがありました。また時間を見つけて全ての作品を読ませていただきます。この上なく贅沢な時間をありがとうございました。 (2018年9月24日 17時) (レス) id: 4ee63399c0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SNYZ | 作者ホームページ:https://twitter.com/nnn_zcn
作成日時:2018年9月24日 16時