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「夜は何食べる?」
「魚介がいい」
「わかった。いいお店、連れて行ってあげる」


 大量の紙袋が並べられたホテルのベッドルームで、2人は空腹からお腹を鳴らす。

 ブルックリンにあるコンクリート打ちっ放しの外装を持つホテル、2人が取った部屋は真っ白の壁と黒い縁取りがされた大きな窓、独特なデザインの照明が特徴的であった。

 Aの調べによれば、ストックホルム出身のデザイナーが手がけたホテルらしく、「NYCスタイル」を貫いた部屋を日本にもつ彼女にとって、この部屋のデザインやインテリアの配置は十分すぎるほど勉強になっているらしい。

 黒のスキニーから、ブルーのボーイフレンドデニムへ履き替えて、ヒールのないチェルシーブーツへ足を入れたAは窓の向こうに広がるNYの摩天楼と、夜の始まりを見つめる降谷の方を軽く叩き、キャメルの小さなバッグを肩にかけた。


___



「...美味いな」


 __ テーブルの上にのった大きな皿に盛り付けられた『メカジキのグリル』


「シンプルな味で食べやすい」


 塩と胡椒、オリーブオイルと相性の良い酸味のあるソースは、メカジキ本来の味をうまく引き出す魔法となっていた。

 2人は白ワインの注がれたワイングラスに反射する光を横目に、ゴールドのナイフとフォークを指先で握って、その味を堪能する。


「お前は買い物、俺は美食を求めてここへ来た」
「別に、名目なんてどうでもいいよ」


 この美味なメカジキのグリルを、白ワインとともに堪能できれば、それ以外はなんだっていい。旅や、食に名目なんて必要ない。やりたいことをして、食べたいものを食べる。

 人生なんて単純でいいんだ、と珍しく屈託のない笑顔をAが浮かべれば、降谷は小さく、自分を嘲るように笑うのであった。

 事実、降谷の人生は単純ではなかったし、仕事の内容だって単純とは言えないのだが、彼女はそれを知っていて「単純だ」と笑うのだ。


「俺は...この世が複雑に見えて仕方がない」


 ポチャン、と白ワインに溺れたその一言は寂しさに溢れていた。

 一瞬、2人の動きが止まったが、Aはすぐにグラスを傾け、レストランの真横を通る人々の流れを見つめながら、ゆっくりと口を開く。


「それは物事を噛み砕いて理解しようとしていないからだよ」


 いつもより肝の座ったその声はコンクリートの床へ勢いよく落ちたが、割れることはなかった。

 彼女から生まれる言葉は、どうやら頑丈らしい。

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(プロフ) - 全部面白い!続き読んで見たいです!皆さん、頑張って下さい! (2018年9月24日 20時) (レス) id: 4b63d11e04 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 正直、どストライクです…!時間ごとにそれぞれの贅沢が詰め込まれていて、読んだことのない作品の主人公にもとても惹かれるものがありました。また時間を見つけて全ての作品を読ませていただきます。この上なく贅沢な時間をありがとうございました。 (2018年9月24日 17時) (レス) id: 4ee63399c0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:SNYZ | 作者ホームページ:https://twitter.com/nnn_zcn  
作成日時:2018年9月24日 16時

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