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 冬の昼間というのは、ごくたまにとても柔らかい光で辺りを照らすことがある。空気という空気に金色の光が反射して、煌めく粒が辺りを散らすような、夢と現実のちょうど中間みたいにあやふやなあの時間だ。

 風見裕也は外での仕事の休憩に、小さな公園を選んだ。住宅とチェーン店の店舗が並ぶ中にポンと置かれた、小さな箱庭である。
 左腕に巻かれた銀の腕時計を確認すると、シンプルなでデザインの文字盤は14:21を差していた。当然平日のこんな昼間に公園が賑わっているはずもなく、風見は安心した面もちで自販機で缶コーヒーを購入すると、ベンチに向かう。


 ふと彼が足を止めたのは、誰もいないと思っていた公園に先客の姿を捉えたからである。
 キラキラと弾む太陽の光を反射する白い肌が眩しく、風見は思わずその三白眼を細めた。おや、と思ったのは、その長い黒髪にどこか見覚えがあったから。

 紺色のブレザーに若葉色をネクタイが映えるあの制服は、確か帝丹高校のものだっただろうか。なるほど。一週間前に夜の繁華街で逃がした黒猫は、昼間は公園にいるらしい。


 ビュウ、とどこからか風が吹いてきて裸の木を揺らした。露出された耳を奪われそうになるほど冷たいそれに身震いしていると、ギンガムチェックの赤いマフラーに顔を深くうずめていた少女が、こちらに気づいて大きく目を見開いた。


「おじさん、この間の」
「君はたしか……。偶然だな」
「スーツ着てこんなところにいるなんて。サボリですか」
「それは君の方だろう」


 お互い名前も知らないくせに、ポンポンと言葉を交わせることが不思議だった。相変わらず少女の瞳は警戒心に溢れていたが、光の加減によって濃淡が変わるスミレ色は以前見たときよりも数段明るい。公園にベンチは一つしかなく、そのうち半分は少女のものになっている。突き刺すような視線に構わず開いている空間に腰を下ろすと、不本意そうな表情をしたスミレ色が体をどけるのが見えた。

 彼女の隣に腰掛けると、ふわりと焦げた匂いがした。肺の中をヤスリでざらりと撫でるような、むせかえる匂いだ。


「……君は煙草まで吸うのか」
「え? ――あぁ。違いますよ、昨日会った男がヘビースモーカーで。多分そのときの煙が移ったんでしょう」


 煙草なんてマトモな人間が手を出すものじゃないですし。と笑って手を振る彼女は、至って普通の高校生に見えた。少しだけ大人をからかうのが巧い、無邪気な少女だ。

 沈黙を埋めるように吐いた息は、白い煙となって空に溶けていく。

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(プロフ) - 全部面白い!続き読んで見たいです!皆さん、頑張って下さい! (2018年9月24日 20時) (レス) id: 4b63d11e04 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 正直、どストライクです…!時間ごとにそれぞれの贅沢が詰め込まれていて、読んだことのない作品の主人公にもとても惹かれるものがありました。また時間を見つけて全ての作品を読ませていただきます。この上なく贅沢な時間をありがとうございました。 (2018年9月24日 17時) (レス) id: 4ee63399c0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:SNYZ | 作者ホームページ:https://twitter.com/nnn_zcn  
作成日時:2018年9月24日 16時

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