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久々に酔いたくなり夜の繁華街に足を運んでいた風見は、その帰り道にとある違和感に出会った。

 日中降り注いでいた雨は、昇っていた太陽が海の向こうにまで姿を消すと途端にその雨足を強め、靴の中にうっすらとした危機感を持つ程度には地上を濡らしている。ネオンの毒々しい光を切り裂く透明色は、一瞬一瞬に色を変えてはむなしくアスファルトへと叩きつけられた。

風見はそれまで酒を胃に落としていた店の先でその様子を僅かに捉えた後、傘を差してその下を歩く。いい塩梅に回ってくれたアルコールが、雲の上を歩いているような心地にさせてくれる。溶けそうなぐらいに熱い眼は、熱を出した時のあの温度と似ていた。

 ふと、雑踏の中に違和感を覚えて立ち止まる。人の群れの中に、ひどく危うげな手負いの猫のようななにかが紛れているような気がした。


「――きみ」


 反射的に掴んだ腕の細さにおののきながら、風見は雨音よりも少しだけ大きな声を出す。違和感の主は、持っていた傘を地面に落としたまま振り向く。横目に、逆さまになった傘に雨水が溜まっていくのが見えた。


「……なんですか」


 反抗的な声。言葉こそ丁寧だが、向けられた視線は夜の冷え込んだ空気に負けないぐらい冷ややかだった。


「君、未成年だろう。こんな時間にフラフラと出歩くものじゃない」


 早く帰りなさい。そう続ける風見に、少女はスミレ色の瞳を強いものに変えた。夜空を煮詰めたもので染めたような、呼吸を感じさせる黒髪が雨に濡れて艶やかさを増している。彼女の白い肌に張り付いた黒毛は呼吸するたびに形を変える。風見の左手に収まる腕は、ひどく冷たかった。


「帰る途中ですよ。この道、塾から近道なんです」
「近道? だとしてもこのあたりは治安が――」


 そこまで言って、ハッとする。風見の目は、少女のラフな装いでも、服装の割に気合いの入った化粧を施されている顔でもなく、首もとに集結されていた。

 呼吸のたびにぬらりと動く首筋に吸い尽くようにして散る、赤い印。男の影を匂わせるそれに気がついた風見が注意深く彼女を観察すると、緩いデニムのポケットに茶封筒がつっこまれているのを捉えた。ちょうど、万札が入りそうな長方形の封筒――。


「それは、」


 思わず力を緩めた風見に気がついたのか、目の前の黒猫は途端に力を強めてするりと風見の手から抜け出す。あ、と風見が間抜けな声を上げた時には、彼女の華奢な背中は雑踏の向こうに消えていた。


「やられた……」


 吸い込んだ空気が肺を刺して痛い、ある冬の寒い晩の出来事だ。

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(プロフ) - 全部面白い!続き読んで見たいです!皆さん、頑張って下さい! (2018年9月24日 20時) (レス) id: 4b63d11e04 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 正直、どストライクです…!時間ごとにそれぞれの贅沢が詰め込まれていて、読んだことのない作品の主人公にもとても惹かれるものがありました。また時間を見つけて全ての作品を読ませていただきます。この上なく贅沢な時間をありがとうございました。 (2018年9月24日 17時) (レス) id: 4ee63399c0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:SNYZ | 作者ホームページ:https://twitter.com/nnn_zcn  
作成日時:2018年9月24日 16時

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