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72.ゆめ占い(山田三郎) ページ24





Aのからだの中はきっと慈愛か、それによく似た優しさの液体で満たされているのだろうと思う。
彼女はとてもきよらかでうつくしく、ぼくは本当に、彼女のことが好きだった。Aのそばにちらばる、あまいミルクのようなもやもやを中毒になるほど吸って、吸って、それにずるずると生かされている。

「…ねえ、いつまで寝てるんです?」
と言ったぼくの声は少し掠れていた。冷房のきいた部屋で眠っていたせいだ。Aの閉じ切った睫毛をみて、どうしてかまたさびしくなった。彼女はなにやら言葉にもなっていない声をあげていた。
「誰の夢をみているんですか?」
彼女がぼく以外を考えていたとしたら、とてもとても、それはつまらないことだ。
「…そんなんじゃ、あなた以外を好きになってしまうかも。」
そんなことあるわけない。だけど焦っていてほしかった。ぼくがAから離れがたいように、Aもぼくのことをいちばんに思っていてほしかった。ぼくがあなたの周りのすべてに嫉妬するように。

(好き。好き。好き。好き。好きだからいなくならないで。)
ねむるお姫さまを起こすように、くちびるにキスをした。Aのまぶたがゆっくりと開く。
「あなたのゆめをみたんです。」
「あなたが死んでしまう夢。…悲しかった。かなしくて、こわくて、さみしくて、泣いてしまいそうだった」
Aは寝ぼけ眼のままやさしくほほえんで、ぼくを抱きしめた。Aの香りがする。ぼくを可哀想がる彼女。ぼくよりも可哀想な彼女。
「…知らなかったでしょ。ぼくはあなたよりもずっと…寂しがりなんですよ」
ぼくをひとりにしないで。
頭がふわふわして言わなくていいことまで言ってしまう。ぼくは彼女といるとばかになる。だけどそれは、とてもきもちいいこと。禁じられていること。
ずっとふたりきりだ。

「…泣いているんですか?」
ぼくはAの涙を舐めた。宗教画のような光景。たまらなかった。彼女以外のなにもかもがまた褪せるのを感じた。やがてぼくのくちびるが彼女と重なって、完全に交わって、とけあって、もうそれだけでいなくなりたかった。幼稚なままでずっと、ふたりきり。彼女をつなぐ枷が音を立てて、ぼくらを永遠に隔てていた。

………

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43沿い(プロフ) - 名前さん» リクエストありがとうございます!ユメゲンちっと久しぶりですね…!了解したしました! (2021年3月15日 1時) (レス) id: 4f61e3adde (このIDを非表示/違反報告)
名前 - 毎日覗いています!急なリクエクトなんですけれど崇拝型というか盲目的というかそういった風の夢野幻太郎さんってお願いできるでしょうか… (2021年3月9日 8時) (レス) id: bc5ff4fc8b (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - ユウコさん» 返信遅くなりましてすみません…山田了解いたしました!がんばって書きます! (2021年3月9日 2時) (レス) id: 4f61e3adde (このIDを非表示/違反報告)
ユウコ - どうも初めまして!いきなりですがリクいいでしょうか?バスブロに愛されてるお話しは出来ますか?ヤンデレでも大丈夫です。もし無理ならヤンデレな山田一郎で彼女を誰にも取られたくない、可愛い過ぎて見られたくないから閉じ込めた、みたいなお話しでも良いので。 (2021年2月28日 21時) (レス) id: 72567c030f (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - さやかさん» はじめまして!ヤンデレ好きな方に出会えてうれしいです!二郎くんがんばって書かせていただきますね! (2021年2月27日 0時) (レス) id: 4f61e3adde (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:43沿い | 作者ホームページ:https://plus.fm-p.jp/u/43zoiand3eda  
作成日時:2020年1月12日 3時

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