54.あまく腐敗(天国獄) ページ6
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「あいつのどこがいいんだ。俺よりも優れているところはどこなんだ。おまえに好かれるような人間だと思えない。あいつはAにはふさわしくない」
喉から転び出る俺の言葉には、覇気なんぞまったくこもっていなかった。情けなく泣くような、いかにもな悲壮感にまみれていて、それがただただ嫌だった。
こんなことになるなら何も知らないふりをしていればよかった。それで終わりにすればよかった。完全に成る必要のない愛は、腐って死ぬだけだ。
「なあ。あいつとはもうキスしたのか?してないだろ。してないって言えよ。言え!」
俺の怒号に怖気づいたのか、Aは肩を震わせてしていないと答えた。そんなことは本当はどうでもよかったが、彼女からの、見せかけでもいい、せめてもの救済がほしいだけで、とうとう俺の支配下に敷かれた彼女の体は、どこもかしこもしろく、あまく、おかしくなりそうなほど俺を惑わせる。
「ン、…」
俺たちはそして唇を重ねた。どんな映画よりもロマンチックに思えた。おびえる睫毛が触れ合って、こそばゆく擽る。つらそうに眉を寄せるAの顔をだれよりも近くで眺める。この表情は俺だけのものだ。誰にも渡さない。
(俺以外見るな。頼む。頼むよ。俺以外のものになるなよ、俺はもうお前のものなのに)
なにかがきしむ音がしていた。心の中でうごめく、這いずる音がしている。ぎし、ぎし、もうそれは壊れそうなんだ。
「触れてくれ」
Aの華奢な手。俺たちが手をつないだのは、これが初めてだった。なにもかも間違っている。そんなこととうにわかっている。俺は空しくも、どこか満ち足りているような気がしたが、それはきっと人間を、人間たらしめる存在に違いない。
愛を求めてさまよう執着のばけものは、今夜、その牙をむこうとしている。
俺の吸うたばこの苦いこと。おまえの閉じた瞼を愛らしく思ったこと。そしてそれを、もう知っている奴がいるんだということ。伝わる鼓動は不規則にうねり、俺たちのあいだを別った。そんなことはわかっているはずだった。
俺だけを好きになってほしい。心が手に入らないのなら、体だけでも。無理やりにでも。死んでも、地獄に落ちても、生まれ変わっても、愛し合いたいだけなんだ。とか、わがまま言う。
「俺だけにする気になったか?」
Aはなにも、なにも言わなかった。もっとも空虚で美しい夜は、もうじきいなくなる。
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43沿い(プロフ) - 名前さん» リクエストありがとうございます!ユメゲンちっと久しぶりですね…!了解したしました! (2021年3月15日 1時) (レス) id: 4f61e3adde (このIDを非表示/違反報告)
名前 - 毎日覗いています!急なリクエクトなんですけれど崇拝型というか盲目的というかそういった風の夢野幻太郎さんってお願いできるでしょうか… (2021年3月9日 8時) (レス) id: bc5ff4fc8b (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - ユウコさん» 返信遅くなりましてすみません…山田了解いたしました!がんばって書きます! (2021年3月9日 2時) (レス) id: 4f61e3adde (このIDを非表示/違反報告)
ユウコ - どうも初めまして!いきなりですがリクいいでしょうか?バスブロに愛されてるお話しは出来ますか?ヤンデレでも大丈夫です。もし無理ならヤンデレな山田一郎で彼女を誰にも取られたくない、可愛い過ぎて見られたくないから閉じ込めた、みたいなお話しでも良いので。 (2021年2月28日 21時) (レス) id: 72567c030f (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - さやかさん» はじめまして!ヤンデレ好きな方に出会えてうれしいです!二郎くんがんばって書かせていただきますね! (2021年2月27日 0時) (レス) id: 4f61e3adde (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:43沿い | 作者ホームページ:https://plus.fm-p.jp/u/43zoiand3eda
作成日時:2020年1月12日 3時