46.しろく孵化(波羅夷空却) ページ47
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『もしもし。』
いたって計画通りに言葉をなぞる、Aのあまいあまい声で、俺の脳は容易にとろける。知っている。俺はこれを知っている。なんども証明と消滅をかさね、窓から漏れる雨の光とキスの濡れた音は、ただしい人の愛し方は、しかしまだ知らないままでいた。
Aのしろい腹に触れる。Aは拒絶に似た反応をみせた。粗末な命のいれものは、やわらかく、残念なことに、愛に慣れちまっている。ふるえた息が部屋に響いて重なり合う。絡まり合う。ふたりの呼吸しか聞こえなければいいのに。世界はたしかに、俺たちのまわりを回っていた。あとで俺を襲うのはおそろしいほどの恐怖と執着、その相反する愛の反芻を、きっとわかっていた筈だ。
「俺だけに、おれだけに、愛してるって言えよ、」
「………、あ、…」
いつまで経っても心が貰えない。
Aは上目遣いに、許して欲しげに俺を見る。乞うその目が本当に嫌いだ。俺にぜんぶ教えたのは、求めなくていい深淵まで誘ったのはおまえなのに!
二人きりの隔絶されたここで、睫毛をふるわせて、いつもみたいに狂って痛いんだ。
静かに泣くAはこんなときでさえきれいだった。俺のことなんか考えちゃいないくせに。どろどろの錘とともにAにつけられた噛み跡が増えていく。血が滲んで、それは、初雪を踏むような背徳だ。冬の雨は激しさと冷たさを増し、俺たちを丸ごと掻き消す。Aは俺だけのものだ。誰にも知られない核にしるしを、俺以外の男じゃ感じられない奥のほうまで、入り込みたい。できるならすべてが欲しかったけど、それももういい。
Aのなかに咲く俺の痕跡たち。それを泳がせるのに許可はいらない。
「聞いてたかよ。Aの声。お前なんかもう出る幕はねえぞ」
Aは泣いている。あいつはわめいている。俺だけが笑っていた。やっと電話を切る。何もかも壊して手に入れるのは俺だけで、邪魔は黙ってればいい。Aに触れるのは俺の指先であってそうじゃなく、熟れきった恋のなれの果てでしかなく、恋と呼ぶにもおこがましい、どん底のこの地点で、罰が増幅する。
くしゃくしゃになって俺たちをおぼれさせる白い海が、それにまた重なったしろい罪が、白ばかりの肢体が、あくまでも甘やかに堕落を招く。
まだ幼稚に窒息していたいんだよ。そしてそれは「お前とじゃなきゃいやだ。」俺のわがままと愛は、こんなに近くにいるAにすら届かない。
『ツーツー。』
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タメィゴゥ - めちゃ面白かったです!ド好みです!ありがとうございました! (2019年12月23日 18時) (レス) id: 98d1675711 (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - タメィゴゥさん» リクエストありがとうございます!そういうのめちゃ好きです!遅くなるかもしれませんがサマトキ了解しました! (2019年12月4日 1時) (レス) id: 8c7ee14403 (このIDを非表示/違反報告)
タメィゴゥ - すみませんリクエスト良いでしょうか? もしよろしければ左馬刻様が夢主にでろでろに依存してしまい離れられないお話を書いていただけませんでしょうか? リクエストがもはやキャラ崩壊ですがよろしければお願いします。<(_ _)> (2019年12月2日 19時) (レス) id: 78b2b55a96 (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - 林檎麻さん» こちらこそありがとうございます!!!はらいくうこうくん、了解しました!ちょいムズですね…がんばります (2019年11月6日 21時) (レス) id: 8c7ee14403 (このIDを非表示/違反報告)
林檎麻(プロフ) - いつも素晴らしいお話をありがとうございます…とっても好きです…愛してます…。リクエストでよかったら波羅夷空却くんをお願いしてもいいですかね…??応援してます…!! (2019年11月3日 2時) (レス) id: 5fe5e3438d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:43沿い | 作成日時:2018年8月31日 0時