【ヒプノシスマイク短編集】俗悪

33.受容体(独歩・一二三) ページ33

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俺は幸福を信じていない。
言うまでもなく無神論者であるし、努力は報われるとか、いつかいいことがあるとか、夢をみることもいつしか忘れた。息苦しい。灰色だ。まったく最低の世界だ。
「一二三。俺たちは…世界に嫌われているよな。かわいそうだ、俺たちは」
俺が悪いのは解っている。”俺たちは”と言ったのは、今一度確認したかっただけだ。いっしょに息を終わらせるための、心の一致を。愛は受容体だ。受け取って変換する。それはどんな方向にも歪んでいく。Aは、振動に抱かれてまだ眠っている。

「ううん。…どっぽちん、俺たちは、べつに、嫌われてる訳じゃない。世界よりも、神よりも、愛さなきゃならないものが見つかっただけでさ」
煙草や、香水や、酒のにおいが充満する車内には、法なんか存在しなかった。しなくてよかった。シンジュクから1時間半で、俺たちは終わる。愛なんてものを見た人はいないけど、きっとそうなんだ。Aちゃんが世界より大切になっちゃっただけで死んじゃえるんだよ。俺たちは狂信者だ。狂ってるって解ってるけど、もう誰にも止められない。

「おきて、Aちゃん。着いたよ」
「ほら、A」

一二三の濁る眼は確かな、Aとの合目的的な幸せを、いたって真剣に欲している。
独歩の擽る指は幽かな、Aちゃんとの”つぎの運命”を、まったく不確かに求めている。
((そしてAは、Aちゃんは、俺たちの愛をどう思うだろう。))

「ん、ぅ……」
「Aちゃん。おはよう。よおく寝てたね」
「A、もうすぐずっと眠れるってのに、おまえは寝すぎだ」
「ぁあ、ごめん…」

俺はAの手を取って、掌にキスをした。御伽ばなしまがいの幸せを信じられるのは今だけだと思った。終わりのその前、わずかに、暗い世界に色がつくのを感じる。俺たちは悪だ。
俺はAちゃんの髪の毛を手にとって口づけた。やっと火をつけて、俺は、俺たちはAちゃんのところへ擦り寄る。
「頭がぼーっとすんね」「…うん」「A。もっとくっついて」「どっぽちんずるい！」
やっと俺たちはいっしょになれる。めの前がしろく晴れる。あの光へとけてきえる。
つぎは、もっと幸せを、しあわせをしんじよう。そうすればまた、いっしょに。

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