28.雨と夢(山田二郎) ページ28
..
「雨。止まないね」
「おう」
眠っているときに誰かの声が聞こえることがある。俺はそれが誰の声なのかきっと知ってるんだろうが、思い出せない。その声を聞くと、内容は覚えていないのに、心臓が押しつぶされるように切なく、息が上手くできなくなる。そうして、だんだんそれにむしばまれるみたいに苦しくなって、飛び起きて深呼吸をする。
午後五時の土砂降りの空はおもく淀んでいて、俺たちは知らない建物の軒先でしばらくジッとしている。Aはときどき沈黙に耐え切れなくなって話しかけてくるけど、俺は別に話を広げようとは思わない。これはあまりよくないことなんだろう。Aが俺を好きなように俺だってAが好きで、特にAが困ったように笑うのがすごく好きだから、あえて一言で会話を終わらせるけど、今日みたいな日はその表情と雨粒の音が交わるのが、馬鹿な俺でもわかるくらいに美しいと思った。
「走って帰ろうか。」
「……いやだ。」
俺はこどもみたいに駄々をこねる。Aがまた笑う。今がずっと続けばいいのに。おまえをもっと困らせたい。その役目は俺だけに与えられていて、そしてそれは終わることなんてないんだと思い込む。
(べつにさあ。)雨に触発されたわけじゃないんだ。たぶん夢の声の主はAだったんだろ？いま鮮明に思い出されるその極彩色、俺はAの手を握って引き寄せる。どうしたのと言いかけたくちびるを塞ぐ。誘蛾灯にむらがる蟲とおなじざわめき、言葉は俺とAの境目を行き来して消えてなくなった。夢を、見ているようだった。このまま窒息してしまうのが世界に有るたったひとつのロマンスだと本気で思った。10億分の1秒間のなかでAは俺に殺される。…
「どうしたの。いきなり」
Aが目を丸くして眉を八の字にした。無重力にも感じるほどの快楽が俺を貫いた。いままで聞いたどんな戯れ言、痴れ言、綺麗事すべてが白い影に隠れて見えなくなる。狭い世界は雨に濡れてあまく風が吹きぬけ、淡く光っている。夢で聞いた音色そのままのAの声は俺が思っていたよりもずっと澄んで、そのくせ呪いのように脳を錆びつかせた。
ナノセカンドの死に知らんぷりをしたままで、俺は今夜うまく眠れるだろうか。
「また明日ね」
切れかかった街灯がちかちか瞬くのがひどく恐ろしいさまに見えたから、急いだふりをして雨を浴びて目を伏せた。
ー
これ短編でやるべきやつじゃないですわね…
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タメィゴゥ - めちゃ面白かったです！ド好みです！ありがとうございました！ (2019年12月23日 18時) (
レス) id: 98d1675711 (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - タメィゴゥさん» リクエストありがとうございます！そういうのめちゃ好きです！遅くなるかもしれませんがサマトキ了解しました！ (2019年12月4日 1時) (レス) id: 8c7ee14403 (このIDを非表示/違反報告)
タメィゴゥ - すみませんリクエスト良いでしょうか？ もしよろしければ左馬刻様が夢主にでろでろに依存してしまい離れられないお話を書いていただけませんでしょうか？ リクエストがもはやキャラ崩壊ですがよろしければお願いします。<(_ _)> (2019年12月2日 19時) (レス) id: 78b2b55a96 (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - 林檎麻さん» こちらこそありがとうございます！！！はらいくうこうくん、了解しました！ちょいムズですね…がんばります (2019年11月6日 21時) (レス) id: 8c7ee14403 (このIDを非表示/違反報告)
林檎麻(プロフ) - いつも素晴らしいお話をありがとうございます…とっても好きです…愛してます…。リクエストでよかったら波羅夷空却くんをお願いしてもいいですかね…??応援してます…!! (2019年11月3日 2時) (レス) id: 5fe5e3438d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：43沿い | 作成日時：2018年8月31日 0時
