23.藍と凩(山田一郎) ページ23
一郎
16:36の、橙と灰が入り混じる空。
古典芝居みたいに何回も繰り返された、愛と憎という感情、結局俺もそれに踊らされる人間のひとつなんだ。町中寒気立っている。凩に震える頬の皮膚をマフラーで覆う。
「寒くなったねえ。」Aが言った。
「ああ。」俺はくぐもった声で答えた。
つないだ手はどちらも無防備で、手袋なんてつけていない。指先が痺れるほど冷えている。俺は掌の奥の熱を求めるように力を強めた。信号はまだ青にならない。Aは俺の眼を見てはにこにこと笑う。俺もつられて笑った。
この幸福をおぞましく思う。
Aはほんとうの俺を知らない。
A、おまえは女神みたいにきれいで、そして俺はそれを汚したくなる。
どうしようもない、
俺のこの感情を表す言葉がみえない。この懊悩は消えない。
阻遏に溜飲を下げるふりばかり。A、A、だけど俺のことなんかは知らなくていい。夢を壊すのは趣味じゃない。一枚奥の感情に気付く前に、笑うおまえの眼を潰したい。滅茶苦茶にしたい。有耶無耶にしたい。Aを俺だけのものに、俺のところまで引き摺り下ろしたい。
だれも知らないまま、そうしてふたりで溶けてなくなってしまいたい。
そんな思考は喉の深く奥で殺す。だんだんと暗くなる藍が俺たちの輪郭をぼやけさせる。罪の意識すらも、世界が許すみたいに黄昏る。Aは俺に微笑んで、青になった人工の光に向かって歩きはじめた。枯れ葉の溜まり場を過って、乾いた風の吹くビル街を抜けて、このままどこかへ二人で行ければいいのに。知らない場所でもきっと幸せに暮らせるだろう。そんなお伽話。いつか夢を見た。
並木道のイルミネーションが点灯する。輝きを増す背景にAは目を細めて、きれいだね、と言った。俺は、その光に胸の内のすべてを暴かれないかと、すこし緊張して、それから返事の代わりにキスをした。Aは頬をさらに染めて、うれしそうに俺を見る。あやふやに蕩けたふたりは、しばし世界から消えて、もとから何もなかったかのように、いなくなった。
(これはきっと進行性のやまいで、それが俺の心臓までたどりついたなら、そうしたなら、…)
Aのかさついた唇が、いつになく煽る紅が、俺をまた静かに狂わせていく。
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タメィゴゥ - めちゃ面白かったです！ド好みです！ありがとうございました！ (2019年12月23日 18時) (
レス) id: 98d1675711 (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - タメィゴゥさん» リクエストありがとうございます！そういうのめちゃ好きです！遅くなるかもしれませんがサマトキ了解しました！ (2019年12月4日 1時) (レス) id: 8c7ee14403 (このIDを非表示/違反報告)
タメィゴゥ - すみませんリクエスト良いでしょうか？ もしよろしければ左馬刻様が夢主にでろでろに依存してしまい離れられないお話を書いていただけませんでしょうか？ リクエストがもはやキャラ崩壊ですがよろしければお願いします。<(_ _)> (2019年12月2日 19時) (レス) id: 78b2b55a96 (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - 林檎麻さん» こちらこそありがとうございます！！！はらいくうこうくん、了解しました！ちょいムズですね…がんばります (2019年11月6日 21時) (レス) id: 8c7ee14403 (このIDを非表示/違反報告)
林檎麻(プロフ) - いつも素晴らしいお話をありがとうございます…とっても好きです…愛してます…。リクエストでよかったら波羅夷空却くんをお願いしてもいいですかね…??応援してます…!! (2019年11月3日 2時) (レス) id: 5fe5e3438d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：43沿い | 作成日時：2018年8月31日 0時
