じゅー。【トイレの花子さん】 ページ12
寧々ちゃんも、居残りの生徒もいない静かな校舎。窓から夕日が差し込んでいて、少し眩しくて暖かなそこでは私も花子くんも一言も話さない。ただ、カチ、コチ、と時計の針が進む音だけが響いていた。
あまりの居心地の悪さに、ヘラり、と笑っていつもの調子で花子くんに話しかければ、痛そうな。悲しそうな、苦しそうな表情を隠して答えてくれる。
「花子くん、鍵なんか閉めてどーしたの?
ごほーびくれるの?それともえっちなこと?」
「そんなわけないじゃん〜
此処じゃ落ち着かないし何時もの屋上行こっか」
何故鍵なんかを閉めたのか。
それは私が何も悟られず、何も言われないように逃げる、という行為を潰すためであろう。もっとも、こんな事をされてる時点で花子くんは既に何かしら気付いているのだろうが、まぁいい。あえて花子くんが何も言わないでいてくれるのなら、私はそれに甘えて気付かないふりをしてればいいのだから。
ゆっくりと歩いていたはずなのに気づけばもう屋上に居て。カーテンも、硝子も、窓枠もない直射的な茜色の光はただただ眩しかった。
「はい、じゃあそこに座った座った」
花子くんの言う通りに、フェンスを背に座り込む。すると、花子くんは当然かのように膝枕をしてきて、膝の上からこちらを見上げ、手を伸ばしてくる。
「花子くん膝枕したかったの?」
「いやぁ、気分だったから?ミツリは俺を見おろせるの、嬉しくない?」
いや、確かにいつもだったらこんな風に甘えてくれることも少ないし嬉しいけども。
せっかくご褒美をくれると言うのなら、ちゅーをして欲しかった。
なんて少し気を逸らせば花子くんは膝の上からいつの間にか居なくなっている。ふと上を見上げれば、ふよふよと浮かびながら先程と打って変わって私が見おろされる。
そのまま、優しく髪を撫で、前髪をずらしおでこに柔らかなキスを落とし……
「……なんで口にはしてくれないの」
「唇は1番大切な人のためにとっとくもんでしょ?俺なんかじゃダメだよ」
「花子くんは意地悪だ。私はこんなにも本気なのに」
ぶすり、と頬を膨らませていれば花子くんは仕方ないなと言わんばかりに苦く微笑み、掌、左二の腕、鎖骨、喉元、首筋、鼻、頬にキスを落としていった。
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作者名:沙之揺來 | 作成日時:2020年2月21日 3時