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「平愛無事」 ページ9

如何にも緊張の糸が緩んだ昼下がり、私はさっき書店で買った漫画を読みながら、私に自身の太腿を枕として提供している伏見に声を掛けた。
『ねぇー夕飯どうする?』
んー、と上の空な返事が降ってきて、私は漫画から目を離して伏見の顔を見る。その視線が雑誌に注がれているのが何だか不満で、私は漫画をソファに置いて伏見の腹に腕を巻き付けた。
『伏見さーん』
もう一度声をかけると、少し待てと言わんばかりに頭を撫でられる。..こうされると大人しくなってしまう私の習性を知っての事だから、此奴は本当に狡い奴だ。そしてその策略にまんまと嵌ってしまう私は馬鹿と言うべきか、それとも従順と言うべきか。
「Aは何が食べたいんだ?」
伏見はパタンと雑誌を閉じ、依然として私の頭を撫でながら問いかける。今度は此方が上の空な返事をする番だった。撫でられているせいか眠気が襲ってきたし、伏見に決めてもらおうと思っていたから何も考えていなかったのだ。
伏見はそれに気付いたのか撫でるのを止め、代わりにするりと私の頬に手を滑らせる。視線を伏見の方に持っていくと、愛おしそうに目を細めるそれと目があったので私は慌てるように視線を逸らした。
「特に無いんだったらオレが何か作るけど」
私はまた同じ返事をする。作ってもらうっていうのも何だか申し訳ない。だが私に何も考えがないのも事実だった。どうしよう、早く決めなきゃいけないのに。
『ごめん』
伏見の腹に顔を埋めて私は言う。彼は優しく私の髪を梳かした。
「謝らなくても別に良いぞ。時間はたっぷりあるしな」
優しい声にドキリと心臓が跳ねる。彼のこういう所が好きなんだ。絶対に私が悪いのに受け止めてくれる、優しい所。
夕飯、何がいいのだろう。伏見の手を煩わせない為にはマックとかモスとか?いやでも折角彼が「作る」と言ってるのだからそのご厚意に甘えさせてもらった方がいいのだろうか。考えていても分からなくて目眩がしてくる。..こういう所が嫌いなんだ、私の、優柔不断な所_
「A、コロッケ好きだったよな」
私のネガティブな思考を、伏見の声が遮った。
「カレーも好きだし、唐揚げも好きだったけか。あぁでもハンバーグとかが良いか?まぁ何れにせよ、オレはカエデが食べたいものを作るぜ」
..本当にこの人は。
優しすぎるよ、と私は腕の力を強めた。

『ハンバーグがいい、かも』

二人でタネから作ろう、私がそう言うと、伏見はこれ以上ないくらい嬉しそうに笑った。

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みそ漬けキュウリで殴る(プロフ) - 蒼空麗さん» お褒めの言葉ありがとうございます…!!こちらこそ読んでいただきありがとうございます!!そう思ってくださったのなら幸いです…泣 (2021年10月11日 15時) (レス) id: ed00509d09 (このIDを非表示/違反報告)
蒼空麗(プロフ) - 愛おしさしかないですありがとうございます (2021年10月6日 16時) (レス) @page26 id: ee676be244 (このIDを非表示/違反報告)
みそ漬けキュウリで殴る(プロフ) - 狛々さん» 読んでいただきありがとうございます!!本当ですか!?めっちゃ嬉しいです…泣考察要素もありますのでぜひぜひ考察していって頂ければと思います! (2021年10月6日 7時) (レス) id: ed00509d09 (このIDを非表示/違反報告)
狛々(プロフ) - 1話読み進めるごとに一番右の星押してました。この作品を読むだけで頭がよくなった気がします!!!! (2021年10月5日 22時) (レス) id: 0c572bf162 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みそ漬けキュウリで殴る | 作成日時:2021年10月5日 19時

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