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怖くなって私は後ろを向く。
そこには笑顔で手を振る伏見と、彼を遮る様に踏切に入って来た電車の姿があった。
伏見の姿が見えなくなったことに安心した私は、息を吐いて電車に目線を向ける。そしてまた恐怖に襲われ、直ぐに走り出した。
電車に、誰も乗っていない。
夕日から隠れた私、作り物の様な笑顔で手を振る伏見、響く乾いた警報音、そして無人列車。
この状況は、一人で味わうには不気味過ぎた。

_でも、これはまだまだ序章に過ぎなかったのだ。
私はこの後、来た道をそのまま戻らなかったことを後悔することになる。

『..はぁ、っ、は、はぁ』
さっきまで夕方だった筈なのに、気付けば辺りは暗くなっていた。
夏の筈なのにやけに冷たい外気が私を抱き締めて離さない。まるで霊界に来てしまったようだ、と思った。
でも、あながちそれも間違いでは無いかもしれない。
先程から伏見の声がするのだ。それも結構な近くで。私にとって安心するものであった彼の匂いと共に。
私はそこまで勘の鈍い人間では無いから、伏見がこの世のモノでは無いことくらい気付いてしまった。
足はとめないものの、その事に対する悲しさと恐怖で涙が溢れる。..嘘付かないでって言ったじゃん、私。
最早土地勘など働いていない。右へ曲がって坂を下って_そうこうしている内に、背後から名前を呼ばれた。
「A」
『..っひ、』
彼の長い指が私の服を掴もうとして曲げられる。
私はそれを、間一髪で避けた、筈だった。

「逃げるなんて酷くないか〜?」

オレ、Aの事ずっと待ってたのに。
耳元で声が聞こえたと思った時にはもう遅くて、私は伏見の腕の中にいた。
『あ、や、離して、ふし』
「離すわけないだろ?」
ぎゅ、と強く抱きしめられ、骨の軋む音が聞こえた気がする。その苦しさに思わず目を瞑ると、あの踏切の音が頭に響いた。
カンカンカン、カンカンカン。
本能から来る警報音とも取れるそれは、夏の匂いと共に段々と聞こえなくなってくる。
そして私が感じたのは、木枯らしの音と張り詰めた空気の冷たさだった。
『え..?』
驚いて目を見開くと、視界に入ってきたのは真っ赤な紅葉と大きな鳥居で。
おかしい、と私は伏見の胸板を押す。だって今は真夏のはずで、私が居たのはこんな所じゃない。
軽いパニックに陥っている私に気付いたのか、伏見はするりと私の頬を撫でて言った。

・→←「愛因悪果」



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みそ漬けキュウリで殴る(プロフ) - 蒼空麗さん» お褒めの言葉ありがとうございます…!!こちらこそ読んでいただきありがとうございます!!そう思ってくださったのなら幸いです…泣 (2021年10月11日 15時) (レス) id: ed00509d09 (このIDを非表示/違反報告)
蒼空麗(プロフ) - 愛おしさしかないですありがとうございます (2021年10月6日 16時) (レス) @page26 id: ee676be244 (このIDを非表示/違反報告)
みそ漬けキュウリで殴る(プロフ) - 狛々さん» 読んでいただきありがとうございます!!本当ですか!?めっちゃ嬉しいです…泣考察要素もありますのでぜひぜひ考察していって頂ければと思います! (2021年10月6日 7時) (レス) id: ed00509d09 (このIDを非表示/違反報告)
狛々(プロフ) - 1話読み進めるごとに一番右の星押してました。この作品を読むだけで頭がよくなった気がします!!!! (2021年10月5日 22時) (レス) id: 0c572bf162 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みそ漬けキュウリで殴る | 作成日時:2021年10月5日 19時

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