第110話 ページ15
「春美が余計なこと言わないかチェックするだけで、束縛するわけじゃないんだよ。これから一緒に楽しく、暮らしていこう。」
拓磨は優しげな声で、そう言った。
やっぱり彼の本心はわからない。
どこまでが見せかけで、どこからが本当の拓磨なのか。
もしかしたら凜と知り合う前の、中学時代にも、彼の本当の姿なんて見たことがないかもしれない。
いっそ彼の全ては嘘で、本当は彼に本心などないのだろうか。
彼を信用出来る日は、きっと来ない。
私にはその資格が、権利が、与えられることはない...。
私は重たい足を1歩ずつ前に出し、ゆっくりと拓磨の方に歩きだした。
拓磨の方から近づくことはなく、ずっと両腕を広げている。
この2人の動きが、これからの2人の関係を物語っている。
...私は、拓磨に支配されていく。
抗えることなど、きっとない。
このまま一生、従うだけの人生...
だいぶ時間をかけ、拓磨との距離を詰めた。
やはり拓磨の方から歩み寄ることはなく、彼はずっと両腕を広げるままで、何も言わないし、表情も決して変わらなかった。
私は、拓磨の腕に包まれるまで後一歩というところで、足を止めた。
それまで床に向けていた目線を再び上げ、拓磨の方を見た。
身長差を実感する距離。
拓磨は私を見下ろし、笑顔のまま一言だけ言った。
「おいで。」
...彼は、証明したいのだろう。
決して拓磨の方から腕に包まれることは無い。
あくまでも君が、望んで僕に支配されたんだよと。
それを、体現したいのだろう。
私に残された道はただ一つ。
今拓磨の横を通り過ぎて、帰るよ、なんて言うことはできない。
自ら、彼の腕に、包まれるしかないのだ...
私は拳をぎゅっと握って、拓磨を睨んだ。
それでも拓磨は、笑顔を崩さない。
私は震える声を必死に抑えながら、彼に言った。
「...最後に言っておく。私は決してあなたを許さない。許す日は来ない。絶対にあなたを、受け入れる日なんて来ない。」
最後の抵抗。
とても微力で、拓磨にとっては痛くも痒くもない抵抗。
それでもよかった。
むしろ拓磨より、自分に言い聞かせたかった。
私は、私を確実に持っている。
全てを支配されるわけじゃない。
拓磨からの監視を許すだけであって
拓磨に全てを明け渡すわけではない...。
私はそれ以上何も言わなかった。
ただ黙って、拓磨から目を離さなかった。
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fruit(プロフ) - いちうさぎさん» いちうさぎ様!!また私に作品を作る機会を作って下さって本当にありがとうございました!私はまだ今作と前作しかありませんが...楽しんでいただけると嬉しいです!!本当にありがとうございます!!(告白は快くお受け致します) (2020年7月23日 0時) (レス) id: b2a1d0f311 (このIDを非表示/違反報告)
いちうさぎ - fruitさん» はあ・・・好きです(唐突な告白)まじで面白かったです!他の作品も今から読ませていただきます!執筆、本当にお疲れ様でした!(((o(*゚▽゚*)o))) (2020年7月22日 19時) (レス) id: d12e33a79f (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - 水の犬。さん» もちろんしっっっっっっっっっかり覚えさせて頂いております水の犬。様!!毎回毎回丁寧なコメント本当にありがとうございます...凄く嬉しいです!「こちらの作品が大好き」もうこれ以上ない嬉しいお言葉です...幸せをかみ締めております...ありがとうございます... (2020年7月20日 22時) (レス) id: b2a1d0f311 (このIDを非表示/違反報告)
水の犬。(プロフ) - こんばんは、お久しぶりです。覚えていなかったらすみません。番外編も読んでいてすごくゾクゾクしました(いい意味です)!改めてこちらの作品が大好きだなと感じました。 (2020年7月20日 18時) (レス) id: 88a373f457 (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - いちうさぎさん» お待たせいたしました!!!遅くなってしまって申し訳ありません...気に入っていただけるかはわかりませんが、読んでくださると嬉しいです!リクエストありがとうございました! (2020年7月20日 17時) (レス) id: b2a1d0f311 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:fruit | 作成日時:2019年8月13日 23時