第53話 ページ7
さすがは精神科医。
初対面の瞬間から相手の不安を取り除く笑顔と声。
まるでなんでも話してくださいと言わんばかりの雰囲気。
地元からの信頼が厚い理由も、この一瞬で頷ける。
...と思った瞬間。
「あ...そうでした。今日は休診にしたんでした。ここに来るとどうしても仕事モードになっちゃって...。今日はただのお客様でしたね。」
そう言いながら彼は、のそのそと白衣を脱ぎ始め、かけていた眼鏡を乱暴に外した。
【ただの】お客様という言葉に少し引っかかりながらも、私は必死で作り笑いが崩れないように保つ。
「突然入ってきて申し訳ありません。今日は休診日なのにも関わらず、わざわざお時間をとっていただきありがとうございます。」
そう言って私が頭を下げると、彼はいえいえ...言いながら椅子から立ち上がった。
「こちらこそ、気づけないで申し訳ない。自己紹介をしていませんでしたね。私は精神科医の吉井と申します。どうぞよろしく。」
決して見せてはくれない本当の彼の心。
今の彼の顔は、何重にもベールを被ったような、私にでもわかる他人向けも他人向けな顔だった。
私がよろしくお願いしますと言って軽く頭を下げると、吉井先生はすっと手を出して、私に座るように促した。
されるがままにそこにあった椅子に座ると、まるで診察するかのように、彼は私の目をしっかりと捉えた。
「無駄話をしていては時間がもったいない。早速本題に入りましょう。あなたは何を聞きに来たんです?」
彼はそう言って背もたれに自身の体を預け、両腕を組んで私の返事を待った。
...彼の顔が他人向けな愛想笑いであることは確かだが、仕事の時の優しいお医者さんというふうには、お世辞にも見えなかった。
やはり今は仕事とは違うスイッチを入れているのだろう。
凜のこととなると、それもまた一段と...
私は彼の目線から逃げないように必死で耐えながら、ゆっくりと口を開けた。
「村上凜の話を聞きたくて参りました。以前あなたを、受診していると思うのですが。」
昨日の電話と同じようなことしか言わない私に、彼はやれやれ...と言いながら目を閉じた。
「昨日も言った通り、守秘義務があるのでそう簡単には話せません。あなたがどこまで知っているのか、聞かせてもらいましょう。それが正しいかどうかだけなら言えるでしょうし。」
彼はそう言い終わると、再び目を開けて私の顔をじっと見つめた。
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fruit(プロフ) - 黒百合さん» コメントありがとうございます!!!お見通しの通り、伏線、いっぱい張ってますよ〜笑もうすぐクライマックスに差し掛かります。推理も一緒にお楽しみください!!これからもよろしくお願い致します!! (2019年7月19日 20時) (レス) id: dc8b637267 (このIDを非表示/違反報告)
黒百合(プロフ) - ストーリーの至るところに伏線が隠されている(と私が思っただけですが)ので、展開を考えて読むのが楽しみです。ストーリーの緊張が高まった所で切れるのでドキドキしながら読んでいます。更新、頑張ってください!応援しています。 (2019年7月17日 22時) (レス) id: a567d07bc8 (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - 水の犬。さん» コメントありがとうございます!!第1弾に続けてコメントくださって本当に嬉しいです!!!!ここからはテストが少なくなるので、どんどん更新していくつもりです。どうぞ最後までお付き合い下さい!いつもありがとうございます!!! (2019年7月2日 22時) (レス) id: dc8b637267 (このIDを非表示/違反報告)
水の犬。(プロフ) - こんばんは、コメント失礼します。このお話更新されるとすごい嬉しくなります!笑今後の展開も楽しみです◎更新、fruitさんのペースで頑張ってください! (2019年7月1日 23時) (レス) id: bcb759c156 (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - ハバネロさん» コメントありがとうございます!!前作から...とても嬉しいです!元気が出ます!!(笑)是非色々と予想を立てながらお楽しみください!ミステリーを書くのは初めてなので不安もありますが...どうぞ応援宜しくお願いします! (2019年6月8日 7時) (レス) id: 479b2f8b1f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:fruit | 作成日時:2019年6月7日 23時