第51話 ページ5
私は役所を出た後直ぐに家に戻り、新たに得た情報をノートにまとめた。
そして、ノートの端にメモしておいた精神科医と連絡しようと、電話番号を携帯に打ち込んだ。
受話器マークのボタンを押し、すぐに携帯を耳に当てる。
メモした番号に発信すると、その電話は直ぐに繋がった。
『...もしもし。吉井です。』
何も言うことを考えていなかった私は、一瞬言葉を詰めたが、なんとか平然を取り戻して言った。
「あ、えっと、もしもし。初めまして。私は斎藤春美と申します。突然で大変申し訳ないのですが、お伺いしたいお話がございまして、お時間を取っていただけないでしょうか。」
私がそう言うと、彼は言葉が理解出来ないというように、静寂を作った。
私は何も言わずに彼の返事を待った。
少し間が空いてから、彼はやっと言葉を口にした。
『その言い方と...病院ではなく私の携帯に直接連絡してくるということは、受診予約ではないということですね。』
明らかに疑念を持った声でそう言われ、私は自分を落ち着かせて返事する。
「はい。私は以前吉井先生を受診した患者の友人なのですが、その患者のお話を伺いたくてお電話しました。」
彼は依然疑念を解かず、私への信用など全くないまま言った。
『患者さんの話ですか...。ご存知でしょうが、医師なる者には守秘義務というものがありましてね。そう簡単にお話出来るわけではありませんーー』
「それでも構いません。お話してくださる、時間だけでも頂きたいのです。全てをお伺いすることなどは考えていません。出来る範囲で、教えていただきたいのです。」
彼が言い終わると同時に私は言葉を畳み掛ける。
語気を強めた私に気圧されるように、彼は少しの間黙った。
『...お話すると言っても、事前に資料などを見ておかないと思い出せない可能性もあります。一体誰のことを聞きたいのですか。』
半分諦めの混じった声。
私を今言いくるめるのは不可能だと判断したのだろうか。
私は、決して聞き間違えられることのないように、ゆっくりと、でもしっかりとした声で返した。
『山田...いえ。村上凜についてです。』
そう言うと、電話の向こう側から息を呑む音が聞こえた。
数々の患者を見た精神科医とはいえど、養子縁組を援助した凜のことを忘れているわけはないだろう。
数秒沈黙を空けると、彼はため息混じりに言った。
『わかりました。時間を作りましょう。明日、午前10時に当院でお待ちしております。』
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fruit(プロフ) - 黒百合さん» コメントありがとうございます!!!お見通しの通り、伏線、いっぱい張ってますよ〜笑もうすぐクライマックスに差し掛かります。推理も一緒にお楽しみください!!これからもよろしくお願い致します!! (2019年7月19日 20時) (レス) id: dc8b637267 (このIDを非表示/違反報告)
黒百合(プロフ) - ストーリーの至るところに伏線が隠されている(と私が思っただけですが)ので、展開を考えて読むのが楽しみです。ストーリーの緊張が高まった所で切れるのでドキドキしながら読んでいます。更新、頑張ってください!応援しています。 (2019年7月17日 22時) (レス) id: a567d07bc8 (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - 水の犬。さん» コメントありがとうございます!!第1弾に続けてコメントくださって本当に嬉しいです!!!!ここからはテストが少なくなるので、どんどん更新していくつもりです。どうぞ最後までお付き合い下さい!いつもありがとうございます!!! (2019年7月2日 22時) (レス) id: dc8b637267 (このIDを非表示/違反報告)
水の犬。(プロフ) - こんばんは、コメント失礼します。このお話更新されるとすごい嬉しくなります!笑今後の展開も楽しみです◎更新、fruitさんのペースで頑張ってください! (2019年7月1日 23時) (レス) id: bcb759c156 (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - ハバネロさん» コメントありがとうございます!!前作から...とても嬉しいです!元気が出ます!!(笑)是非色々と予想を立てながらお楽しみください!ミステリーを書くのは初めてなので不安もありますが...どうぞ応援宜しくお願いします! (2019年6月8日 7時) (レス) id: 479b2f8b1f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:fruit | 作成日時:2019年6月7日 23時