知ってはならない。

第5話 ページ6

ごめん。
そう打とうとした瞬間

突然携帯の画面が切り替わり、激しく振動した。

「!?」

それは、拓磨からの電話の通知。
少々躊躇いながら、応答のボタンを押した。

「...もしもし。」

『春美、ごめんね。本当に大丈夫?』

「うん...。拓磨っ...」


私はそのまま泣き崩れた。
私の泣き声を聞き取ったのか、拓磨は驚いた声を上げた。

『春美っ!?...とりあえず落ち着いて。泣いてもいいけど、ほら、深呼吸。』

拓磨にそう言われ、ゆっくりと息を吸って息を吐く。

涙こそ止まらないものの、私は拓磨のおかげで少しばかり落ち着けた気がした。

深呼吸を続け、話が出来るようになるのを待つ。

『もう落ち着いた?話せるようになったら、声を出して。』

拓磨はゆっくりと待ってくれている。
私は数回深呼吸を繰り返すと、小さく言った。

「...落ち着いた。ありがとう。」

『よかった。春美。』

なだめられるようにそう言われ、私はうん、と呟きながら少し笑顔になった。




彼は少し凜に似ている。

その優しさ、明るさ、包容力。

言葉遣いもどこか似ている気がする。

中学時代に彼に惹かれ、だから凜と出会った時に凜に惹かれたのかもしれない。



私は近くにあった椅子に腰掛けた。
すると、拓磨がそっと声を出した。

『春美...。もしよかったら、この2週間で何があったのか話してくれない?』

2週間

2週間前は

凜が

凜がこの世からーーーー


「っ...」
『春美っ。無理はしないでいい。』


私が再び泣きそうになると、察知したのか拓磨がそう言った。

私は込み上げる涙を全力でおさえつけた。

『話せる状態になってから、でいいよ。今無理にとは言わない。』

なおも私を優しく包む拓磨の声。
私は涙腺が壊れそうなのを必死で堪えながら言った。

「わっ...たしの、仲がよかった友達...女の子がっ...。」

『うん。』

途切れ途切れで、ぎこちない言葉も、拓磨は小さく頷いて聞いてくれる。

「こないだ...っ。理由も...わか...らずに...自ら命を絶って...」

そこまで言って、私の涙腺は決壊した。

『...そっか。それは辛いね。』

私は今度こそ大声で泣いた。


拓磨に言って実感する。

いなくなった
凜はいなくなった...

『辛いこと聞いて、ごめんね。』



こちらこそごめんね。

そんな簡単な言葉も言えないまま、私は泣き続けた。

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