第三幕 塵王魔神 ページ9
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「そんなに呼び名があったのか……」
なんでも昔の黒陽は根無し草もいいところな生活を送っていて、色々な魔神の元へ顔を出しては、語り合うことを楽しんでいたのだとか。
璃沙郊の魔神には
帰離原の魔神には
地中の塩の魔神にはアルスノアと呼ばれた、と。
鍾離はそう言って懐かしむように目を細めた。
「帰離原……」
その名は、なんだか大切なものに思える。
ただの地名のはずなのに。
「帰離原はかつて、塵王魔神……帰終と、モラクスの領土だった場所だ」
「キシュウ……帰、終？」
「ああ。俺より先に彼女を呼べるようになるなんて、お前は親想いだな」
「親？」
愉快そうに笑う彼の、その言葉に引っかかって首を傾げた。親、という記憶はない。きっと手放したわけでもない。親と呼ぶべきは地脈であり、この星だ。
だが鍾離は塵の魔神を黒陽の親だと言う。
「以前、名付け親の話をしただろう。あれが帰終だ」
……ああ。
だから帰離原の名が、こんなにも。
「ん？ だが、帰終はコウヨウと……」
「璃月港が建てられたあとで、お前は名を統一した。塩王からの名も、璃沙郊の王からの名も捨て去った」
そうだとしても、黒陽の名前はどこにもない。
『黒』は一体どこから来たのだろう？
「帰終は……戦死したが、同盟者であるモラクスは生き残った。だからお前は帰終からの名と、モラクスの名から一文字ずつ取って黒陽とした」
なるほど、と黒陽は呟く。
帰離原の伝説と似たような経緯だ。
帰終は自分を幸陽と呼び、モラクスは黒のつく名で呼んでいたから、黒陽と名乗り出した。
「モラクスはお前を
では、どうして過去の黒陽は、他の名前を捨てたのだろう。塩の魔神たちを憎んでいたから？
……いいや、それは違う。
名を聞いても、不快には感じなかった。むしろ懐かしくさえあり、口角が上がりかけるほどだった。
「だったら、どうして……」
鍾離は浮かない顔の黒陽に気が付くと、飲んでいた茶を置いて「黒冥」と昔の名を呼んだ。
「お前は昔から仁に厚く、義にかなっていた。岩王帝君が璃月を建てたことで、地中の塩も璃沙郊も璃月となり、魔神はいなくなった」
顔を上げる。
彼の表情は普段通りで強く、磐石だ。
「だからお前は璃月を、モラクスを
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作成日時：2021年8月1日 1時
