幕間：発音について ページ5
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「せめてショウリはちゃんと呼びたい」
黒陽は神妙な面持ちでそう言った。
俺がとりあえずと完成した三色団子を手渡すと、その顔のまま食べ始める。パイモンと同じくらい食い意地が張っているかも。
確かに、黒陽の発音はちょっとたどたどしい。イントネーションが変だったり、アクセントがおかしかったりして、あんまり滑らかとは言えない。
「同音異義語は言えるもんね」
「ああ……だから困っているんだ、わざとみたいで」
「じゃあ、チェックしよう」
『
『
『
『
『
イントネーションの違う言葉もいくつかあるが、音節自体が発音できないわけではないようだ。
「勝利が言えるなら鍾離だって言えるだろ！」
パイモンも団子を頬張りながら言う。
確かに一理あるけれど、なぜか黒陽は言えない。
「なんでだろう」
「……力が……入りすぎているんだと思う」
彼は恥ずかしそうにそうこぼした。
「人の名前を呼ぶとき、どうしてか、ちゃんと呼ばなければと思うんだ。間違えたくない。失礼のないように、とも思う」
「前から思ってたけど、おまえ、名前に敏感だよな」
俺もそう思う。頷くと、黒陽は不思議そうに首を傾ける。彼にとってはそれが常識なのだろう。
俺の名前もちゃんと訊ねてきたし、自分の名前にも積極的に反応していた。
「だって、名前は贈り物だろう？」
ああ、そうか。だから。
黒陽にとって名前は、大切な贈り物だから。
間違えたくないし、適当に扱いたくないんだ。
(でも、)
君にとっては呪いじゃないか。
化瑞なんて名前を押し付けられて、奉られて、自分勝手に利用されて。
自分は『化瑞』だからと、責任を取ろうとした話も聞いた。そんなの全部人間が勝手にしていることだ。
「そんなこと言われたら、何も言えないだろ……」
「そうか？」
「そうだよ。もうそのままでいいんじゃないか？」
「むう。でも……」
「誰も咎めないだろ？」
「そうだが……ソラは？ どう思う？」
水を向けられて我に返る。
「俺？ 別に、好きにしたらいいと思う」
「そうだよなあ」
落ち込んだ様子の黒陽に、慌てて首を振った。
「ちゃんと呼びたいなら練習すればいいし、誰も咎めないからそのままでもいいってことだよ」
「ん、ああそうか。……頑張ってみる」
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作成日時：2021年8月1日 1時
