第二幕 西風騎士団 ページ35
.
「ようこそ、モンドへ。私は西風騎士団、代理団長のジン。こちらは図書館司書のリサ。それから、騎兵隊隊長の──」
「ガイアだ。よろしくな」
男は握手を求めて手を差し出してきた。よろしく、と言って握り返す。
「あなたも雷の神の目を持っているのね。もし分からないことがあったら、わたくしに訊いてちょうだい」
同じ元素のよしみよ、なんて微笑むリサの胸には、確かに雷の巴紋が光っている。
黒陽は意外にも歓迎されていることを感じ、旅人の任務が滞りなく完了したことを悟った。
「何か困ったことがあれば、我々に。旅人の友人は我々の友人だ」
「ありがとう、ジン。心強い」
ジン代理団長は優しい顔で微笑んでくれた。
「じゃあ……旅人も一緒に行く？」
「へ？」
話を聞いていたアンバーが旅人にそう問うと、彼は小首を傾げて聞き返す。彼女は一緒にモンドを観光しよう、と言っているのだ。
「いや、俺は……」
「オイラたち、ちょっと約束があって……」
聞けば、稲妻にいるとある子どもと会う約束があるのだという。それなら引き止めることはできない。
アンバー、黒陽、空、パイモンの四人は騎士団本部を出て、お互いに手を振りあった。
手を振るという行為は、どうやら挨拶になるらしい。今まで理由も分からずしていたけど、実感した。
「またな！ ファデュイに狙われてるって言っておいたから、騎士団も守ってくれると思うぞ！」
「世話になったな。また」
「また今度ねー！」
彼らは旅人だ。
ひとところに留まるような人物ではない。
だからこそ旅人であり、どこへ行っても『異邦人』とされるのだ。
黒陽は放浪者である。
旅と違い、放浪には目的がない。
行くあてもなく、故郷もなく、目的もなく。
ただ、流浪の民として生きる。
( ……彼らはいずれ、私のもとから…… )
いなくなってしまうのでは。
黒陽は首をぶんぶんと振って、そんな考えを振り払った。縁起でもないことは考えたくない。
彼らが自分を捨てることなんてないと信じたい。
……いや、自分は放浪者だ。
会いにきてくれなくなったら会いにいけばいい。
そのとき、自分は初めて旅に出られるだろう。
「次はどこに行こっか。城内は回っちゃったもんね」
「それなら、少し頼みが……」
「いいよ！ なんでも言ってみて」
アンバーの快活な受け答えに面食らう。頼みが何かを聞く前から承諾するなんて、警戒心がないのか。
「君と誓いの岬に行きたいんだ」
「えっ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 91人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時：2021年8月1日 1時
