第九幕 慧眼、追及す ページ30
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「遅いなぁ……」
パイモンの言葉に頷くと、ちょうど階段の辺りから見知った赤髪が現れた。
ディルックが肩を貸して連れてきたのは……黒陽。ウェンティも、隣でふらつきながら歩いている。
「あいつら、あんなになるまで飲んだのかよ……」
うー、と唸る黒陽を受け取って肩を貸し、ちょうど働いていたらしいオーナーに礼を言う。
「ありがとうディルック、もうちょっとで酒場まで探しに行くところだった」
「……それを待てばよかったかな」
「あはは……」
「にしても……どうして黒陽が酔っ払ってるんだ？」
俺はパイモンが余計なことを言う予感を察知して、咄嗟にその小さな口を押さえた。もごもご言って抗議されるけど、口を滑らされるよりはいい。
ディルックが何か言いたげにこちらを見た。
「彼が酔わない体質だと言って、そこの呑兵衛詩人が『午後の死』を飲ませたんだ」
そんなことだろうと思った。
現在の黒陽は過去に比べて、アルコールへの耐性があまりないようだ。
「だが、いま君が言った言葉は……そういう意味じゃなさそうだ」
時すでに遅し、と。
俺は稲妻だか璃月だかのことわざを思い出しながら、この場をどう切り抜けようか思索を巡らせた。
たぶん、俺が下手にパイモンの口を塞いだから疑惑が加速しているんだ。
手を離してやると、パイモンは怒って「もう！」と言った。ごめんごめん。
「でも、本人の許可を取らないと──」
「こいつは人じゃないんだ。だから酔っ払ったりするはずない」
「パイモン……」
じとり、とそちらを見る。
「……えへっ」
まあいいか。人じゃないって言っただけで、璃月から来たんだったら、仙人の可能性もあるわけだし。
それに、黒陽なら二つ返事で許可をくれただろう。
「彼の体内から雷元素の痕跡が見えた。これは、どう説明する？」
彼とウェンティを二人にするんじゃなかった！
俺は夜風に当たって気持ちよさそうに目を細めている吟遊詩人にパイモンと同じ視線を向けた。
「で、電気水晶でも食べたんじゃないか？」
「君は何を言ってるんだ……」
でも事実だし。
なんて言えるわけもなく、俺は片手で顔を覆った。
もう隠し通せない、のか。
でも、モンドに滞在するなら明かしておいた方がいいのでは？ 下手に隠していると後から面倒なことになるだろうし……
よく考えろ、俺。
黒陽は寝てる。ウェンティも眠そうだ。
彼の代わりに決断できるのは、俺だけ。
「……黒陽は魔物なんだ」
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作成日時：2021年8月1日 1時
