第一幕 清泉町 ページ22
.
「ふふん、漁と弓は上手いんだ」
清泉町の近くには湖があり、鳥や魚がよく採れる。
黒陽にそう説明すると、彼は得意げに言った。
そこまで言うなら、と思い、俺たちは湖畔で膝を抱えて見学することにした。
おもむろにローブを脱ぎ捨て、偽の神の目がぶら下がったベルトと烏の仮面も置いて、湖の中に入っていく。
裸ではなく、旅人と同じ服を再現してくれているのが唯一の救いだった。前に話しているときローブをめくったら、服がなかったから。
まず、黒陽はそのまま湖に入っていった。
黒い長髪が水に浮かび、それから紫色に輝き出す。肩ほどまで水に浸かった瞬間、辺りに紫電が走った。
「漁が得意って、そういう……」
俺は思わず笑ってしまった。
電気ショックを受けた憐れな魚たちは水面に浮かび上がり、黒陽はそれを回収して陸に上がる。
続いてキューブ状の物で弓を作り、同じようにして矢を生み出した。それをつがえては水鳥を射る。
実に三羽もの赤喙鴨を捕まえ、魚と共にローブに乗せて、満足そうに戻ってくる。
「見たか。上手いだろう？」
「上手いっていうか……ズルだろ、あれ？」
「……まあ、そうだな」
自覚あるんだ。
濡れた髪をうざったそうにしながら、黒陽は獲物たちをどうするかと訊ねた。
「ブロックって料理人が清泉町にいるんだ。彼女に作ってもらおう」
「おまえは？ 作らないのか？」
「俺はその間に、モンドのことを黒陽に教えるよ」
ブロックは腕のいい料理人だ。
清泉町に戻って鳥肉を手渡すと、「一時間もあればできる」と引き受けてくれた。
それから宿屋で今日の寝床を確保して、俺たちは誰もいない風車を見上げる。
黒陽に塵歌壺を見せるのは、もっと後がいい。
あれこれ質問されても答えられないし。
「モンドは風と自由の国なんだ」
「聞いたことがあるぞ。璃月とは真逆で信仰するものには形がなく、契約に縛られない人々が住むと」
「そう。だから、風が見える風車も信仰の対象」
なるほど、と言って、彼は風車を見上げた。
物憂げな金の瞳は静かに輝いている。
夕日に照らされた風車の白壁が、美しかった。
風魔龍トワリンとの戦いや、パイモンとの出会いを話したら、一時間なんてあっという間だった。
ブロックに呼ばれて彼女のところに戻る。
鳥肉のスイートフラワー漬け焼きの甘い香りと、バター魚焼きの香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。
「いただきまーす！」
「いただきます」
「いただきます……？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 91人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時：2021年8月1日 1時
