第一幕 未来のこと ページ2
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満腹になったパイモンが息を吐き、幸せそうに腹を撫でる。黒陽も同じように幸せそうに吐息をもらし、うまかった、と言った。
「黒陽はさ、顔を決めたらどうするの？」
俺は純粋な興味からそう訊ねた。
もし自分の形を決めて、『化瑞』であることをやめたなら、そのあとはどうするのか。
璃月で暮らすのか、旅に出るのか。
人の営みを見たいと言っていたから、人がいるところに行くのだろうけど。
「まずは、モンドに行きたい」
「だろうな！ そのあとは？」
そのあと、と聞かれた彼は目を丸くする。
まるで未来のことなんて考えたこともない、と言っているかのよう。
「そのあと……？」
「うん、そのあと」
「そのあとか……」
腕を組み、首をひねる。
既に七国を巡ったらしい黒陽にとって、もう一度旅をする理由はもうないんじゃないだろうか。
なら、璃月に戻って暮らすのかな。
「……まあ、そのときに考えるよ」
へらりと気の抜けた笑みで彼は言った。
俺とパイモンは顔を見合わせ、口元をゆるめる。
黒陽のこんな笑顔も初めて見たからだ。
「じゃあ、モンドに連れていってやるよ！」
「本当か？ 願ってもないことだ」
目を輝かせる黒陽。
見知らぬ土地にワクワクする気持ちは、旅の醍醐味だ。俺もモンド、璃月、稲妻と経験してきたから、よくわかる。
「いいよ。稲妻にも、行きたかったら」
「稲妻？ あそこは鎖国中なのでは……」
「ふふん、オイラたちには関係ないぜ！」
俺の連れ合いだと言い張れば、たぶん離島からも出られるだろう。……ああ、稲妻で思い出した。
「そうだ黒陽、これ。おにぎりっていう稲妻料理」
バッグからおにぎりを取り出し、彼に手渡す。紺田村で貰った竹の皮に包んであるから、まだ中身は見えない。
「おにぎりなら見たことがあるぞ。影向山の近くで、荷車をひいた商人が昼食として食べていた」
昨日見たみたいな語り方だ。記憶に残っていることは、どこまでも鮮明であるらしい。
彼は「まさか自分で食べる日が来るとは」と言って微笑み、竹の皮を開いた。そっと口にする。
「……うん。ソラは料理が上手いんだな」
「人並みだよ」
「それに謙虚ときたか。まったく、君ってやつは」
愛おしそうに眉を下げ、歌うように憐れんで、また二口目を頬張る。みるみるおにぎりはなくなった。
黒陽はモラで膨らんだ巾着を取り出して、立ち上がりながらこう言った。
「さて。そろそろ、生まれよう」
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作成日時：2021年8月1日 1時
