第二章：無相のひと ページ1
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セシリアの花を模したブローチと風車アスターを手に璃月港へ戻ってくると、黒陽はあの、鍾離先生に似た顔で待っていた。
「なんだ、結局鍾離の顔にするのか？」
「雰囲気だけな。もっと遠ざけて、色を変える」
「先生の顔、気に入ったんだ？」
「……うん、きっとそうだと思う。なぜだか馴染みがあるし、落ち着くんだ」
人の顔を借りておいて『落ち着く』なんて変な話だが、黒陽がそういう生物だと俺はもう知っていた。
万民堂に連れられる道中、彼は公子の話をしてくれた。しおらしく「目立ってしまったかもしれない」と言われてしまえば、こちらも強くは出られない。
大丈夫だよとなだめながら店の入口をくぐった。
「旅人の姿だったんなら、どうせ『またか』で済んでるさ。な、空」
「それはそれで複雑だけどね……あ、そうだ黒陽、これ」
空いている席に座り、俺は風車アスターを取り出した。モンドの象徴のひとつで、彼らが信仰する風の具現。見える風、とも呼ばれている。
店内に流れるそよ風を受け、くるりと回った。
「風車アスターっていうモンドの花。おみやげ」
「わざわざ？」
「おまえ、モンドに行きたがってただろ？ だからモンドの特産品を持ってきてやったんだ！」
「なんと……！」
目を輝かせる黒陽にパイモンと二人で微笑み、セシリアの花飾りを手渡す。
固定化する、新しい彼のカタチに似合うか不安だったけれど、これなら大丈夫そうだ。
「清心や琉璃百合にも劣らぬ綺麗な花だな」
「だろ！」
パイモンがへへん、と威張る。
彼は着ていたローブの留め具を外し、代わりにセシリアのブローチをつけた。肩口で布をとめているから、異国情緒が増している。
「……私も、本当は君に櫛を贈りたかったんだ。紫水晶を使って。稲妻では、櫛は自分の分身とされているから」
そう言って照れたように笑い、運ばれてきたチ虎魚焼きに手をつける。パイモンの漁師トーストに興味を持ったのかじっと見つめて、最終的には同じものを頼んでいた。
自分の分身を俺に持っていてほしい、ということか。一緒に旅に出られないからその代わりに？
「ただモラがなくてなあ」
「おまえもかよ……」
貧乏占星術師に思いを馳せた。
「なので君たちへのプレゼントは食事とした。好きなものを好きなだけ食べるといい」
「嘘じゃない……よな！？」
黒陽は初めて、からからと豪快に笑う。
「はははっ、そんなわけないだろう？」
口の中にきちんと収まる舌が、妙に目についた。
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作成日時：2021年8月1日 1時
