術式：ボーカロイド

18曲目 ページ18

七海side

最初はほんの興味本位だった。
色々異質であるあの三人の中で唯一、常識がありそうだったから、というのもあるが、

雰囲気が、完全に一般人だったのである。

こんな血を血で洗うような世界に似つかわしくない、ごくごく普通の高校生。
そういうイメージを抱かせる彼女。

何故此処に居るのだろうと、ふと気になったのだ。

五条さんからのパシリという名目で彼女に接触する機会をもった私は、ずっと気になっていたことを彼女にきいいてみた。


聞いてみてから、後悔した。


質問した時、先程から無表情ではあれど、何かしらの感情は見て取れた彼女の顔から、ごっそりとなにかが抜け落ちたのがわかった。

目の焦点が何処か虚ろで、まるで、彼女だけ別次元に居るような＿＿＿＿


「先輩」


思わず声をかけた。
不意に、「呼び止めなければならない」という強い使命感が私の胸中をよぎった。
何故そう思ったのか、そんな思いに駆られたのかはわからないが、とにかく、引き止めなければと思ったのだ。

『.....』
先輩からの応答はなく、未だ視線は虚空を彷徨っている。


やはり、迂闊に聞いたのは失策だった。

ひとり後悔していると、

『＿＿＿＿＿＿七海君』


突然、誰か(・・)に名前を呼ばれた。
その声が目の前にいる先輩から発せられたのだと気づくのに、多少の時間を要した。
それほどまでに、違っていたのだ。
声質も、雰囲気も。

先輩の形をした何かは、先輩の口を借りて言葉を紡ぐ。


『七海君、僕(・)はね、救わなくちゃいけないんだよ。
　
　家族を守れなかったから。

　わかっていたのに、救えなかったから。

　それが僕(・)にできる、唯一の罪滅ぼしだと思うから。

　＿＿＿＿＿＿だから、後悔なんてしてられない』

そう言って、ふわりと笑う「先輩」

「......そうですか」

私は、それだけしか応えなかった。応えられなかった。



後にも先にも、先輩を「恐い」と感じたのは、このときだけである。

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