炎の蝶は舞う【文スト】 (ページ8)

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午前は一通りここでやっていくために必要なことの説明があった。首領に謁見したり、ある程度ビル内を案内されたり。

此処には異能を持った人たちがたくさんいる。そうでない人もいるけれど、異能を生かした仕事が多いらしい。

「君が梶井くんの異能力を発見したのかね。大したものだよ」

森幹部はそう言って目を細めた。紅葉さんに任せると言ったわりにつきっきりで面倒を見てくださっている。

「ここが剣術の稽古場だよ。君と同じくらいの歳の子が稽古をしているから、みておくといいよ」

幹部殿はそう言って裏庭を示した。何やら目にもとまらぬ速さで紅葉さんにとびかかっていく黒い塊があるが……

それじゃあ私はここで失礼するよ、あとは紅葉くんに任せるからと言って幹部殿は去って行ってしまう。お仕事があるのだろう。

芝生の上にぐでんと倒れている少年がいた。

「あの、大丈夫ですか？」

Aは手を差し伸べた。どうも途中で倒れたらしかった。

「嗚呼、大丈夫だよ。少し休憩していただけだから」

そういう割にはAの手を借りて、重そうに体を起こした。Aは不覚にもドキンとした。長い茶色の髪から覗く赤みのある瞳に、Aの顔が映っていた。片目は斜めに巻いた包帯に覆われている。

首も手足もほっそりとしていて、少女のようにも見えるけれど。

「ああ……」

しばし無言だった。

「これは美しいお嬢さん。お名前は」

恥ずかしげもなくそんなことを言って名前を聞いてくる。

「そういうのは自分から名乗るものじゃないかしら」

梶井さんに、迂闊に名乗るなと言われたのを思い出した。そうでも言われなければ、Aはここで名乗っていただろう。

「そうだね。私は太宰。太宰治だよ」

ふっと楽しそうに彼は笑ってそう言った。

「私は、笹原A。今日ここへ来たばかりなの」

「ああ、森さんから話は聞いていたよ。おっと」

「きゃっ」

Aはとっさに声を上げてしまった。次の瞬間、Aのいたところに黒い塊が降ってきた。太宰という少年が手を引いてくれなければ、Aはつぶされていただろう。

「ってて」

あまりにすばしっこいものだから塊とばかり思っていたけれど、正体は男の子だった。

「中也、落ちてくるなら場所を考えてくれないかな」

「るっせえな、わざとだよ。手前はサボって女と喋りやがって」

太宰さんより、というかAより少し背の低い彼は悪態をついた。

「中也、後ろが危ない」

太宰さんは中也さんの後ろを見上げる。