組織 ページ7
黒塗りの車へ乗り込むと、モトジロウがAの荷物を持って隣へ乗ってくる。
Aはとっくの昔に覚悟は出来ていた。こんな異能力を持って生まれたのだから、組織に取り込まれるのは最初から決まっていることなのだ。
だから、仕方が無いのだ。
発進すると、Aは紺色の袴の折り目をすっと直した。
モトジロウやお母様から組織の詳しいことは昨晩聞いた。
ちらりと隣のモトジロウを見やると、困ったような何かを思いつめたような複雑な表情をしていた。
相変わらず世界が全部紫色に見えそうなゴーグルをしたままだ。
Aは彼のこんな表情は初めて見る。モトジロウといえば常にヘラヘラニヤニヤと笑っている男で、憂いとか悩みは顔に出さないのに。
対してAは無表情だったと思う。
ヨコハマまで目立った会話もなく、例の本部ビルへ着いた。港の側が組織の牙城。Aは、ここへ来たことがない訳では無い。
モトジロウに連れられて、エレベーターで上へ。
廊下はモトジロウが2人横に寝っ転がっても足りそうな位の幅があって、紅いカーペットが敷かれていた。
入る前にチェックがあった。恐らく機械でもチェックしているんだろう。
ドアが開かれると、広間へ通された。
「やあ、よく来たね」
まるで遊びに来た孫に言うみたいな口調で、森幹部は言った。
部屋の奥にいる森幹部には何度も会った事があった。モトジロウが組織に入る前から、Aは彼を知っている。
部屋の左奥の椅子に、煙管を持った綺麗な和装の女の人が座っていた。子供のAがドキンとするような、柔らかな色気が漂っている。
そういえばモトジロウの仕事着は趣味が悪かった。裾のボロボロになった白衣に女子高生も付けなさそうなよくわからない柄の缶バッジを留めて、くたくたになったズボンから出た足に下駄を引っ掛けている。
Aは、今日からよろしくお願いしますと頭を下げた。
「君のことは、紅葉くんに任せることにしたよ。彼女のところで剣術を学ぶといい」
「はい、よろしくお願いします」
Aは、何があっても動じないと決めていた。この人の言うことに逆らう気はなかった。命が惜しいとか、そういうことではない。
Aは与えられた部屋で暫くぼーっと天井を見つめていた。8畳の旅館のような部屋には、真ん中に四角い漆塗りの机があって、箪笥も部屋の隅に備えつけてある。
ここは本部ビルとは別棟にあって、Aのようなマフィアの子が住んでいるみたいだった。
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作者名:さなえ@Love伊織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeEs/
作成日時:2017年6月29日 13時