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大きなビニール傘 ページ1

父は自分勝手な性格だった。低学年の私が遊ぼって声をかけても眠いからって無視をされたり、
しつこいと部屋から追い出されたり、一人で遊んできてってお外に出されたり、
タバコの煙を吹きかけたり。暴力や暴言はなかったが父は私にかなり冷たかった。

 母はそんな父のことを注意してくれたけど母も母でストレスが溜まったり、
上手くいかないと私に当たることは少なくなかった。財布が飛んできたり、
夜に家の外に追い出されたり、部屋で何かしているとうるさいって怒鳴られたり。
ご飯も作ってくれていたし、学校にも行かせてくれていた。特に何もなければ優しいし、
欲しいものも買ってくれた。けど母はいつも笑ってなかった。

 私が10歳になった頃だった。父は家に帰ってくることは無くなった。私はどんなんでも
父が好きだったから寂しくなったら父の部屋で寝たり、電話をかけてみたりしていた。
電話に出る父はいつもそっけなくていつも

「はいはい」、としか言わなかった。

それでも私は普段会えない父の声を聞けることは私にとっては
嬉しいことだった。でも本当は帰ってきて欲しかった。頼んでも、仕事だから、って
いつも断られていた。お正月も、ひな祭りも、お誕生日も父がいたことはなかった。
夏休みも冬休みも、春休みも、いつも父は私のそばにはいなかった。小さかった私は
父が別の人といるなんて思いもしなかったんだ。

 しかし父が帰って来なくなればなるほど母は優しくなっていった。私の誕生日になると
母は私と祖母を連れておいしいレストランに連れて行ってくれるようになった。大型連休には
海外旅行に連れて行ってくれた。お正月には祖母と母と私で温泉旅行に行くようになった。
私はそれが嬉しくて父が帰って来ない方が母は笑顔で優しいんだ、って思うようになっていた。


 

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作者名:yozora | 作成日時:2021年10月12日 16時

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