林檎 ページ1
しゃりしゃり。しゃり、ずっ。
「痛…っ……。」
痛い。久しぶりだった。まるで料理の練習のようなタイミングで指を切った。よく切れる程では無い刃物は鈍く指を傷つける。透明な指の表面の水分とマーブルに混ざりみるみる溢れていく赤い血液を、私はどこか他人事のように見ていた。切っていた林檎に付着してはいないのを見て、気を取り直して一先ず絆創膏を貼ろうと思った。しかし、キッチンを出るとそこにはグラジオがいた。
「Ψ、何してたんだ。…その指、怪我してるのか。」
「あっ、…うん。林檎、切ってて。」
「そうか…オマエにしては、珍しいな。痛くないか。…そこ、座ってな。」
「ありがと…。」
ぶっきらぼうな指示だけど、気遣かってくれてるのはよく分かる。
どうやらグラジオが諸々をしてくれるつもりらしい。と思ったが、すぐに踵を返して戻って来た。
「どうしたの、…って、ちょっと、」
グラジオは私の手を掴むと、にやりと笑ってこう言った。
「そういえば…舐めとけば治る、とか言うんだったな、オマエの地方では。」
「そんなこと、どこから…っ」
「…さぁな…」
グラジオの整った唇に向けて、指が運ばれる。まさかなと思ったけれど、あろう事かグラジオは私の指を見せつけるように舐めた後に口に含んだ。
「ひっ…っ…!」
傷のある部分を避けて周りを舌で撫でるようにしたかと思えば、指の根本まで熱い口内に沈められる。擽ったさとむず痒さに必死で目を逸らしたが、ふと見上げると目が合ってしまった。指を舐められているだけでここまで反応してしまう恥ずかしさに指を引き抜こうとすると、細い腕に見合わない強い力で押さえられて動かせない。それどころか、グラジオは私のできたての傷に歯を立ててきた。まるで止めてもらおうとしたことに対する罰のように。
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作者名:山羊 | 作成日時:2017年4月10日 0時