バーチャル・ラブメイキング編 ページ7
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「ばーちゃるらぶ…なんだっけ」
「メイキング!」
女性客は声を上げ、Aに訴えかけた。
「もう!しっかり覚えてよう」
いつものようにひの屋で働いていると、常連客が楽しそうにやってきた。
その手には今流行りのゲーム機が握られていて。
「Aちゃん、いる?!」
勢いよく店の中へと飛び込んできた。
「バーラブ一緒にしよ!」
「ばあ、らぶ??」
店に来るなり、Aにゲーム機を突きつけた。
今にでも飛びつきそうな彼女を座らせ、日輪は困ったように笑った。
晴太も母そっくりの表情で、客にお茶を差し出した。
湯気の立つ温かいお茶を気にせず、すぐに口につけて女は舌を出した。
「騒がしいやつじゃのう」
「ありがとう、月詠さん」
月詠から濡れた布を受け取り、客に手渡した。
そしてひんやりとした手に、交換するようにしてゲーム機を乗せられた。
触ったこともないそれに、困惑するばかりだ。
「これやってみて!貸してあげるから」
「突然だなあ。どうしてそんな急に」
「いやあ、私これに凄くはまっちゃって。面白いから誰かと共有したくて」
女はあははと楽しそうに笑う。
これが俗に言う布教活動かと、A達は顔を見合わせた。
晴太はAの手からするりとゲーム機を抜き、触り始めた。
「で、なんで、私?」
「だってえ、日輪さんや晴太君には合わないだろうし、月詠さんはそもそも色恋には興味なさそうじゃない?」
「物凄い偏見じゃな」
「で、残ったAちゃんは現在進行形で彼氏いる訳だから、恋愛ゲームやってくれそうだなって!」
「何その単純思考…。完全に巻き込まれじゃん」
思わずはあと溜息をつく。
すると、横から軽快な音楽が流れてきた。
晴太が持つゲーム機の画面には、若い少年達のイラストが動いている。
「まあ、こういってることだしさ。面白いんでしょ?このゲーム」
晴太の尋ねに、女の目はますます輝く。
「そうなの!!だから、お願い!ね!!」
女の圧に耐え切れず、晴太からゲーム機を受け取る。
「もう、分かったってえ」
「ちょくちょくここに食べ来るついでに、様子聞きに来るからちゃんと進めてよ?」
「はいはいー」
真っ直ぐな女の視線を避けるようにして、手元の画面を見る。
顔の整った少年達は、きらきらとした爽やかな笑顔でAを見ていた。
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作者名:Nattu | 作成日時:2021年12月24日 17時