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味よりも体験。
それがAの考えだった。
『私は手作りのもの貰えたら嬉しいかも』
いずみの一言に思い付いたのが、風鈴だった。
とはいっても一からつくるわけではない。
「じゃあ、皆、可愛く絵付けよろしく!」
急遽ひの屋で開催された風鈴絵付け教室。
ちょうど休日で暇をしていた晴太やいずみ達に、協力してもらうことにしたのだ。
店内は盛り上がり、なんだなんだと客は増える。
一石二鳥だった。
形はどうあれ、一点物と聞くとどこか惹かれるものがある。
完成した一つを日に晒せば、きらきらと朝顔の絵が輝いて、
「…うん。いいね。
上手ー!これ書いたの誰?めっちゃ上手いじゃーん!」
日本の夏らしさをよく表していた。
とは言っても、中元というとやはり食べ物のイメージが強かった。
紫陽花や向日葵をイメージした茶菓子も考えたが、夏の暑さの中渡すには不安があった。
気温で駄目になってしまうことを重点においてしまうと、なかなか一歩踏み出せずにいた。
「ねえねえ。皆、夏と言ったら何を思い浮かべる?」
そう彼らに尋ねれば、口々に意見が飛んでくる。
夏休み、海、プール…さまざまなものが挙がってくる中で、
「おいらは祭りかなあ。今年も母ちゃんや月詠姉と行くの楽しみなんだ」
晴太の言葉に、身体に電流が走ったような感覚に陥って、
「それだ!!!」
思わず彼を抱きしめた。
彼らや来てくれた客に好きなシロップの味を聞き、それぞれ夏の思い出を語ってもらう。
「家族で毎年花火を見に行って」
「当時付き合ってた女の子の浴衣姿が」
「子どもがかき氷食べて舌を見せてきて」
皆思い思いに、自分自身の夏を語っていく。
楽しそうに、時には寂しそうに、それぞれの夏が表れていた。
自分はそんな思い出なんてないはずなのに、懐かしい気分になっていた。
そして、夏を語る彼らの顔が生き生きとしていたのが印象的だった。
そんないろいろな夏を詰め込んだ箱を見ている
『…いいプレゼンじゃった』
海のようにきらきらとした瞳が弧を描いていた。
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作者名:Nattu | 作成日時:2021年12月24日 17時