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(自分から頼んだ癖に)
そう心の中で屁理屈を言いながら、商人の二人の姿を思い出す。
試してみろといわんばかりに、楽しそうな顔をしていて。
「こんなに美味しいのになあ」
机上の饅頭に手を伸ばして、空を見つめる。
見た目は派手ではないが、素朴な甘さが口に広がる。
吉原でよく親しまれている商品のひとつだ。
相手にするのは宇宙を駆け回る敏腕商人達。
庶民過ぎるものはきっとうけないだろう。
「珍しいの。Aが早起きしとるとは」
起きてきたばかりの月詠は小さく欠伸して、眠そうな目でこちらを見ていた。
隣に座り、朝食代わりに饅頭を手に取った。
その手を辿るように視線を移す。
無意識に彼女が食べる姿を見ていると、不機嫌そうな顔をした。
「あ、すみません。どうぞ、ゆっくり食べて下さい」
「…そう言われてもそんなに見られたら、食べにくいじゃろう」
「もう、見ませんって」
わざとらしく視線を背けて、饅頭を手に取る。
くるくると回転させて、一面を見た。
月詠は一つ食べ終わって、Aの手からその饅頭を奪い取った。
「月詠さんはこのお菓子好きですか?」
「おぬしはあれからすっかり商人の頭になっとるのう」
「いいから、答えて下さいよう」
「無難で美味いと思う。まあ、特別秀でとるってわけじゃないがな」
月詠は頬を緩ませながら、饅頭を口に入れた。
そんな時だ。
「ええ…嫌だよう」
部屋の奥から不満そうな晴太の声。
それからすぐに日輪の不服そうな声がした。
月詠と顔を見合わせて、二人の元へ向かう。
扉から顔を覗かせれば、日輪は例の饅頭が入った箱を晴太に渡している。
晴太は背中の後ろに手を組んで、受け取る気配がない。
「この前、いずみちゃんのとこでご飯いただいたんだろ?お礼に渡しな」
「ええ。もう少し見た目が」
「文句言わない」
わあわあと言い合っている。
(一人で考えてもしょうがないかも)
喧嘩する二人を気にせず、部屋に入り晴太の肩を叩く。
「晴太君はどんなのだったらいいの?」
突然話しかけられて、彼は目を丸くする。
それから少し考えて、耳元で
「いずみちゃ…女の子にいいなって思えるのがいいなって」
恥ずかしそうに言う。
(女の子受け…)
若い女の子に良いと思えるものは、特に流行が重視されるだろう。
不意に思いついて、
「いずみちゃんと今度会わせてくれない?」
また晴太の肩を叩いた。
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作者名:Nattu | 作成日時:2021年12月24日 17時