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「総員持ち場に着けぃ！！」
社長の指揮に従い、社員全員が一列に並ぶ。
皆、円盤と紙を手に持ち、そわそわしている。
その列に陸奥もいた。
「嬉しそうじゃのう、頭」
後ろには鼻歌を歌う大きな男。
つい先程まで興味なさそうにしていた癖に、単純な男だと思った。
ステージ上の妹は、いつも見ていた彼女と別人のような、少しだけ遠く離れた存在のように思えた。
不思議と寂しいとは思わず、新たな一面が見れたと喜んでいる自分がいた。
「陸奥う、何話したらええかのう」
少し離れた目隠しの隙間から、目を細めているAの姿が見える。
手を交わしながら、困ったように眉を下げている。
「いつも通り話したらよかろう」
「じゃ、じゃがあ。今のAはわしの知らん娘っちゅうか、何ちゅうか…」
坂本もAのきらきらとした姿に戸惑っているらしい。
珍しい姿に、危うく頬を緩めてしまいそうになった。
陸奥の前にはあと一人だけだ。
順番はもうすぐそこまで来ている。
妹が目の前にいると言うのに、心臓の音が早くなっていく。
「お次の方、どうぞ〜」
「ちょ、ちょ、陸奥う。先に行かんどくれえ」
上司の言葉を無視して足を進める。
間仕切りを越え、陸奥の姿を見た瞬間、Aは嬉しそうに目をきらきらと輝かせた。
「来てくれてありがとう！！」
「いや…。こちらこそ誘ってくれてありがとう。なかなかない貴重な体験じゃった」
思うように言葉にならない。
言われるまま、Aの横に並び、写真を撮られる。
彼女はスタッフから写真を受け取り、器用に文字を書きながら陸奥に話しかけてくる。
「どうだった？」
「ああ。良かった。元気を貰えるっちゅうんも分かる気がするぜよ」
「でしょ？お通ちゃん、可愛い笑顔だから無敵だよね」
Aの事を言っているにも関わらず、どうにも話が合わない。
それがより彼女らしさを感じさせられた。
書く手が止まり、写真を差し出される。
それを受け取れば、にっこりと歯を見せて笑って、
「お姉ちゃんが来てくれて嬉しかった！またね！」
手を振った。
呆然としたまま、流れ作業のように外へと追い出される。
手元に残ったのは、満面の笑みの妹とぼんやりとした顔の姉の写真。
アイドルとはいえ、そこに写っているのは紛れもなくAで。
『お姉ちゃん、ペンライト振ってた！笑』
振り返って、動揺しているであろう上司に小さく拳を向けた。
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作者名：Nattu | 作成日時：2021年12月24日 17時
