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笑わないで、そう言ったものの、反して坂本は違う反応を見せた。
「これが、おまんを夢中にしたっちゅう」
「はい…そうです」
男は画面を見て固まった。
それもそうだ。
画面にいたのは、ふかふかとした頭の明るい笑顔の青年なのだから。
それを見ながら、坂本はよく似た頭を掻く。
「そのぉ。キャラクターを攻略するにはパラメータっちゅうんがあるんじゃろ」
「はい。勉強とか運動とか」
「このキャラクターはどのパラメータが重視されているんじゃ」
そう聞かれ、思わず喉が鳴る。
「運動と、流行と、ファッション…だったかな」
「よくありがちなお金や賢さじゃないんじゃな」
運動、流行、ファッション…と坂本は繰り返す。
そして、自分を纏うジャケットや眼鏡に触れる。
着物とは違う、世間から見てみれば風変わりな格好だ。
「で、性格は」
ふいに坂本の言葉は強くなる。
「明るくて優しくて、誰にでも対等な…人です」
言いながらだんだんと言葉が詰まる。
目の前の男を指しているようで、鼓動が高くなっていく。
耳に熱が上っていくのを感じる。
「わっ」
ふいに熱い耳にひんやりとした長い指が触れる。
そのまま床に身体が落ちていく。
サングラスの下の青い瞳が、鋭くAをとらえていた。
「たかが、ゲーム。たかが、キャラクター。
…そう簡単に考えちょったわしが馬鹿じゃった」
(ああ、怒られる。妬かれている)
そう思い、きゅっと目を瞑れば、大きな身体で抱きしめられた。
急な温かさに目を開ける。
「すまんの。寂しくさせて」
想像もしていない言葉だった。
坂本はAを見て、悲しそうに笑う。
(こんな思いをさせたのは私のせいだ)
整った顔を両手で挟み、唇を重ねる。
うっすらと目を開ければ坂本は目を瞑っていて。
(愛おしい)
ゲームでは味わえない感情が膨らんでいく。
「A」
唇が離れ、坂本は優しい眼差しでこちらを見ていた。
返事はせずに視線で返す。
坂本は嬉しそうに目を細めて、
「おまんの攻略対象に入れてくれるかのう」
悪戯に笑う。
「馬鹿ですね。もうとっくの昔に貴方に堕ちてますよ」
いつもなら恥ずかしい言葉も、エンディング場面のようにさらさらと口から溢れていた。
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作者名：Nattu | 作成日時：2021年12月24日 17時
