不完全恋愛【不死川実弥】

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｢何でだよ、もう長いんだろ？｣

｢そうだなァ｣


カタカタとパソコンで文字を打っている音が聞こえる。
どうでもいいというような彼の態度に、
本音を聞きたい、でも怖いという思いが交差し始めた。





｢じゃあ、何でいまだに付き合ってんだよ？｣

確信に迫るその質問に、逃げ出したくなったが何故か、根でも張っているかのように私の足はそこから動けなかった。
そうだなァ…まァ、とぽつりと呟いた彼。







その瞬間、私の中から音が全て消えた。







｢しいて言うなら、




…アッチの相性、抜群なんだわァ｣






＊





どうやって帰ってきたのかは分からない。
コーヒーなんてもうどうでも良くなって、
デスクの上に放置、パソコンの電源もきっとそのままにしてきてしまったと思う。


彼のあの言葉が頭から離れない。
私だけ将来を想像して舞い上がって、馬鹿みたいだ。
だけど、真実を聞いたところで彼に私の方から別れを告げられるほど、想いは冷めることを知らなかった。




そして不思議なくらい、涙も流れない。






＊






｢ただいまァ。｣



それから数十分後、彼が帰宅。
疲れたわァ…Aも残業だったんだろォ？なんて言いながら台所へと立つ私を後ろから抱き締めてくる。




『…実弥、大好き。』


火を止めて向かい合い、胸へと顔を埋める私に、どうしたァ？なんて言いながら大きな手が頭に乗る。







『ご飯にする？お風呂？それとも…』

漫画やドラマでよく聞くセリフ。
聞く度にそんなベタな…なんて笑ってたっけ。


彼のネクタイに手をかけてするすると解いていく。
珍しい私からの誘惑に、彼の喉仏が上下した。




『ね、どうする？』

彼が私の上目遣いに弱いことは知っている。
首を傾げるような仕草をすれば、あとはもう。





｢…煽るの、上手くなったなァ？｣









自ら手放すわけがない。
彼のこんな表情、他の誰にも見せてやらない。




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