黒いマントと赤いリボン*1 ページ1
F side
この村には古くから言い伝えがある。
"赤いリボンが結われている黒いマントを羽織った者を見るとその子は数月以内に死を迎える"
"その者の目を見れば、死期は早まる"
黒いマントと赤いリボン、というのは、魔法使いの象徴であった。
18になる俺もまだ一度も見かけたことがなかった。
まあ見かければ死ぬというのだから、この歳まで生きていれば見かけていないということだ。
この村には高等教育機関はない。
中学を卒業すると、勉強のできるやつは街へ出て高校や大学を出る。
勉強は苦手じゃなかったが、高校や大学に行く金はなかった。
だから俺はこの小さな村で、中学を卒業してから菓子屋である家の手伝いをしていた。
「母さん、森でベリー採ってくる」
「ありがとう。魔法使いに気をつけてね」
「大丈夫だって！…んじゃ、行ってくるね」
母さんの言葉にいつものように答えると、自分の部屋に入り、お気に入りの帽子をかぶった。
「行ってくるよ、宏光」
宏光からもらった真っ黒な石に触れ、話しかけ、口付けた。
木の実を入れるためのカゴを掴んで家を出た。
宏光、というのは、小学校中学校といつも遊んで、同じ校舎で学んだ俺の友人……いや、俺の愛した人だ。
最近はただ仲が良かっただけで、気が付かなかった。
だけど、一緒に遊んで過ごした時間が、俺の気持ちをそう変えさせた。
しかし、中学を卒業すると同時に、宏光は突然姿を消した。
思えば宏光の家も知らなかった俺には、宏光と連絡をとる手段もあるわけもなく、あとを追うこともできないままで3年が経ってしまった。
あの石は、中学を卒業するときに宏光がくれたものだった。
綺麗だからあげる、とそう言っていた気がする。
ガサガサと低木をかき分けて森に入っていく。
しばらくすればベリーの群生地にたどり着くはずだ。
ここに生えるベリーは、宏光も大好きだったうちで一番人気のケーキを作るのに必要なものだった。
「…！」
遠くに、黒いマントを翻して歩く後ろ姿が見えた。
いけないと思ってももう遅い。
物音も立てられない。
座って隠れることもできないが、せめて見られないように、と、ぐっと息を潜める。
カサッ
俺の足元を小さなキツネが数匹駆け抜けた。
その後ろ姿がぴたりと歩みを止める。
もう、終わりだ
*
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作者名：しょこら
| 作成日時：2018年8月20日 12時
