この街で

10.F ページ10

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世間話の最中、

いきなり様子がおかしくなった北山さん


血の気を失い、目を泳がせる姿は

まるで何かに怯えているよう


まだ出会って2回目とはいえ、

前回には見られなかった様子に

何があったのかと心配になる


普段の俺だったら

ここで深入りなんてしない


この街には本当にいろんな人たちが集まる


俺なんて何の力も持っていないし

話を聞くのも話すのも上手くないから

黙って美味しいコーヒーを提供し

ここにいる間は何も気にしなくて良いように

あるいは思う存分思い悩めるように

空間を提供するだけ





いつもはそれだけなのに……





疲れたのかもと誤魔化す北山さんに

一歩踏み込んでしまう自分


まだ出会って間もない人に自分から

こんなに積極的に行くことなんてない


不慣れなことをしている為、

ぎこちなさが溢れているかもしれない


自分の行動に違和感を感じつつも

『北山さんをこのまま帰しちゃいけない』

そう思った俺は反射的に

引き留める言葉を口にしていた





「「カンパーイ」」





ｶﾁﾝｯと音を立てるワイングラス


金色の液体と白い泡が踊る


同時に口を付けたはずなのに

一瞬で無くなった北山さんのグラスの中身





カウンターの中ではなく

北山さんの横に一緒に座り酒を酌み交わす


名前すら先程知った程度の仲なのに

あまりにも自然に会話が弾むのは

お互いの職も関係しているのかな





「ワイングラスでビールとか

藤ヶ谷さんに似合いすぎですね」





空になったグラスに

何度目かのビールを注いでいると

くりくりの瞳でこちらを見上げる北山さん


「ふふっ、そうですか？

ありがとうございます」


こうやって飲み始めてから

北山さんの前職がホストだと知ったけれど

天職だったんじゃないかな？って思った


北山さんは天性の人ったらしって感じがする


これは勿論褒め言葉


俺にはない魅力たっぷりなその才能


無いものを強請っても仕方が無いけれど

北山さんを見ていると羨ましく思う





「ねぇねぇ、藤ヶ谷さん？」





「なんですか？」





ほろ酔い状態になり

少しリラックスしたように見える北山さん


上目遣いでこちらを見上げている





「なんで、カフェなんですか？

この辺でこのお店の雰囲気なら

barとかそーゆーのも似合いそうなのに」





「あっ、それは………」









俺たちは知らなかったんだ


俺らの知らないところで

俺らの様子を見ていた人が居たことに





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