この街で

09.Ki ページ9

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俺の不自然な訪問を

何事もないかのように受け入れてくれた

先日のイケメンくん


相変わらず柔らかい物腰に

落ち着く笑顔を湛えている





「あの……、店長さんなんですか？」





本物の重厚感が漂う内装と調度品


年配の方がやっているお店と

勝手に思い込んでいたけれど、

先程店外で発せられた言葉からは

ここは自分のモノというニュアンスを感じた





「あっ、すみません

先日は、ご迷惑をお掛けしたのに

名前も名乗っていませんでしたね」





そう言うとイケメンくんは店の名刺に

サラサラと自分の名前を書き足した


そして、カウンターの外に出て

わざわざ俺の傍までやってくると

その名刺を俺に差し出した





「藤ヶ谷太輔と申します

『Cafe キール』のオーナーです

ここは元々祖父が経営していた店なんです」





「あっ、えっと…………」





胸ポケットから慌てて自分の名刺を取り出し

俺も同じようにイケメンくん……もとい、

藤ヶ谷さんに差し出した





「イベント会社『Husic K』の北山宏光です」






「ご丁寧にありがとうございます

北山さん、よろしくお願いします」





些か丁寧過ぎる対応に戸惑いながらも

その後のはにかんだ笑顔に

こちらも自然と笑顔になる


彼の人柄のせいなのか、

行動の全てに愛嬌を感じる





「北山さん、お仕事の帰りですか？」





「あっ、はい！

現場が近くだったんで…………」





そこまで言いかけると

ﾋｭｯと喉の奥が詰まるのを感じた





再び血の気が引いていく感覚


外に誰かいないかと窓の方を振り返る





………居ない





そーだよな、居るわけない……よな


さっきのもきっと気のせいだったんだ





「……北山さん？」





心配そうな顔で覗き込む藤ヶ谷さん





「あっ、すみません！

いやぁ、朝早かったから疲れてんのかな？」


笑って誤魔化す俺に

“それはお疲れ様です”と

優しく微笑みかけてくれた





「仕事後の一杯、飲まれます？」





クイッとグラスを傾ける所作


お好きですよね？と断定されてしまった


初対面が朝帰りのときだった手前、

ぐぅの音も出ない





「……でも…………」





店内の時計は既に大分いい時間を指していた





「あっ、営業時間外なのに……ってことなら

お気になさらないでくださいね？

営業時間中は酒類は扱っていないんです

営業時間後のお楽しみなんで、

もし良ければお付き合いいただけますか？」





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