この街で

02.Ki ページ2

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前の職場のオーナーの頼みで

ご贔屓さんと朝まで呑み明かした帰り道


俺の歩く先には

鼻唄交じりに草木に水をやる男性


視界には入っていたけれど、

クタクタな身体と脳みそは

その人を意識させることなく

俺の足をただ前に進めさせていた





ﾋﾞｼｬｯ!!!





いきなり降り注いできた水滴に

俺は思わず声を上げた


……いや、水滴なんて可愛いもんじゃない


若い男性が手に持っているホースの水が

弧を描いて俺に降り注いでいた


イイ歳してオールしたせいか

頭の回転が鈍っていた俺は

瞬間的に避けることも出来ず、

結構な量の水浴びをすることとなった


しかも、残念なことに

相手も鈍臭い奴なのか何なのか

こっちに気付くのが遅かったんだよねぇ





「本当にすみませんっ！！」





状況を把握するなり、

真っ青な顔で頭を下げる男性


背が高く鼻筋がすっと通った

その見た目に似つかわしくなく

目の前でわたわたと焦っている





「あーっ……、俺もぼーっとしてたんで

この天気なんですぐ乾きますよ」





完全にパニクってる姿が

あまりにも可笑しくて

ニヤけそうになるのを誤魔化しながら

目の前のイケメンくんに微笑みかける


「……っ、いやいや、ダメですよっ！」


俺の反応に目を丸くしている


俺がぼーっとしてたせいで

被害拡大したようなもんだし


別に水なんて乾きゃどってことねーし


そんな気にする必要ねーのにな？





「……今！今、急いでますかっ！？」





「えっ、いや……？」





「じゃあ、ぜひ一度店の中に！！」





……へっ？突然どーした？


こんな朝っぱらから悪徳勧誘か？





「いや、マジで大丈夫なんで」


「大丈夫じゃないですよ！

きっとこれからお帰りですよね？

そんな濡れたまま電車に乗ったら

風邪ひいてしまいますから！！」


お願いしますっ！なんて言いながら

俺の腰に手を添えて

店ん中へ誘導しようとしてくる


「あっ……、いや、俺歩きなんで」


あれ？これマジでヤバイ系？なんて

頭の片隅で疑ってみるものの

その人の様子を見ていると

そんな気持ちはすぐに打ち消された


「いや、でも……、えっと……」


俺が大丈夫ですからと言い切って

立ち去ればいいだけかもしれないけれど

そうさせてくれない雰囲気を

この人が醸し出しているせいで

思わず足を止め続けてしまう


あまりにも必死で……

不器用そうな感じが漂っている


これがホントに何かの勧誘だったら

この人は相当の役者だ





「あっ、じゃあ！

お詫びにコーヒー飲んでいってください！」





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