薬指の約束

浮ついた心 ページ13

doppo side



ちゃんと覚えてた。
Aとの記念日。

伝えたいことだってあったし、
渡したいものも用意していた。


30も目前の男が緊張だなんて、お前は笑うだろうか


2ヶ月ほど前に開かれた会社の飲み会。


そこでハゲ課長やら同僚やらにしこたま呑まされ
酔っ払ったあげくに、後輩の女の子に
俺は手を出してしまったらしい。


そこからズルズルと続いた後輩との関係。




Aを傷つけるようなことはしたくない


でも、後輩も傷つけたくない。




全ては俺の弱さが招いたこと。







記念日だってそうだ。



前日にAから念押しのように時間を言われて
待ってる、とまで言われたのに。



仕事のミスで落ち込み、泣きそうになっている後輩を放っておくことなんてできなかった。






最低なことをしたのは俺。






結果、Aを傷つけたのも俺。






朝、目が醒めると隣には気持ち良さそうに眠る後輩。



俺とAの寝室だけには





絶対に入れたくなかったのに。





それより、A…
もしかして知られてしまったのだろうか…





居ても立っても居られず、シャツを羽織り寝室から飛び出てリビングへ行くと








テーブルの上には、ペアリングの片割れ





そしてAのスマホ







「……っA…、A…」







君を傷つけたのは俺。
だけど浮気なんてした俺なんかにも
きっと「しょうがないなぁ」って
いつもの笑顔で抱き締めてくれる。
どうしようもない俺だけど
きっと笑って許してくれる









だけど、そんな期待も虚しく、Aの私物が
たくさん残る部屋なのに









Aだけがどこにもいなかった。

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