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「怖い言葉でも聞いたの?ねえ、A、お前は、俺が、好きじゃ、ないのかって」
わざと区切って、口も大きく馬鹿みたいにはっきり発音してやったら、Aは片方の手で耳を抑えながら軽く首を振って嫌がった。
『ひ、やめっ…、ジンさんだめですそれ聞かないで』
「なんで。返事はイエスかノーかの二択でしょうが」
『その二択のどれも、伝えたくないからセ フレつってんですってば…!』
思った以上に重症だ、この子。
もう一度腕を引いたら、簡単に俺の胸に体がくっつく。
抵抗する気は全く無くて、むしろ望むところみたいなグニャグニャ具合。
よいしょって足の間にAを横抱きにして、顎掴んで顔上げさせたら、すごく微妙な顔してるけど、めちゃ嬉しそうな空気は伝わるよ。
両思いって、こんな気持で良いんだっけ?
嬉しいのと嬉しくないのと、
腹立ってんのと可愛がりたいのと、
キスしたいのとそれ望まれてんのわかってるから、
してやりたくない感じ。
「俺が好きなら、付き合おうよ」
あ、俺から言っちゃった。
まあ良いか。
『迷惑です!』
「なんて?」
『あっ!違います、ジンさんの気持ちが迷惑ってことじゃなくて、私の存在が、ジンさんには迷惑になるってことです!』
「とんでもなくびっくりした」
一瞬放り出してやろうかと思った。
Aは俺の言葉が嬉しかったのは間違いない真っ赤な顔で、でも慌てた感じで、苦痛に耐えるような表情で…とにかく複雑な顔。
『私と付き合ってることが明るみに出たりしたら、ジンさんのアイドル人生に差し支えが…!』
「悪の黒幕でもやってんの?」
大げさ過ぎる表現に呆れたら、ぐうって喉を鳴らして黙り込んだ。
『じ、事件性が…っ』
それ以上は言いたくないって顔を覆ってしまったAだけど、俺は追求するの辞めるつもりは全然無かった。
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作者名:フネ55 | 作成日時:2023年5月17日 13時