ep151 ページ10
冷たい椅子からその表情を窺った。
「可能だとも。その代償に汝は記憶を失い、ポートマフィアのために異能を使うことになるが……」
成る程。あくまでも取引だと……。
記憶を消すのは私が
「…………構わない」
所詮、記憶を失くしたところで何が変わるでもない詰まらない存在だ。
寧ろ、失った時に何が残るかを知りたい。その時残ったものが“私”の本質だと云えるかもしれないのだから。
其処に叩敲がして男が入って来る。
「此奴の異能を使う」
記憶を操作する異能力者か……。
男はゆっくりと手を伸ばし、私に触れた。ぼぅっと不気味な光が視界を覆っていく。そして気付けば先刻と同じ風景が目の前に広がっていた。特に何も変わりはない。
本当に記憶は消えるのか――……?
些かの疑念と共に首領を見れば、
「記憶が完全に消えるまでにはもう少しかかる」
そう云い乍ら彼は懐の小銃を引き抜き、記憶操作の異能力者をごく自然に……当たり前のことのように撃った。
パンッ、と乾いた音がしてそちらを見れば急所を撃ち抜かれ、即死した男と其処から流れる血の池がとくりとくりと広がっていた。
私はそれを一瞥し、小銃を仕舞う首領を冷たく見詰める。
そう、彼の選択は正しい。記憶操作の異能力者が異能を解けば私の記憶は戻って仕舞う。殺せば永遠に戻らない。彼の意思に関わらず、その危険性がある限り殺すのが最善策だ。
「流石は修羅……己の為に他人が死のうと歯牙にも掛けないか」
それだけ首領は私の存在を堅く秘匿しようとしているのだと理解している。私がポートマフィアの為に尽くす代わりに私の記憶を消し、その秘密と存在を守る。そういう取引なのだから。
「名は?」
「……はい?」
突然の問いに疑問符を浮かべた私。暫くして名前を聞かれているのだと気付く。
「A」
「そうか……ならば今より汝は菊池Aと名乗れ。この男の名だ」
床に転がった屍に視線を送る。
――……“菊池”……A……。
私はその名を胸中で反芻した。そして大きく息を吸い込み、胸に手を当てて首領の前に跪く。
「ではこの菊池A。私の為に流された血に誓い、貴方とこの組織の為に命を捧げましょう」
「期待しているぞ、最終兵器」
そう云った首領を仰ぎ見た処で私の記憶はぶつりと途切れた。
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ギラッフェ(プロフ) - こゝろさん» はじめまして。コメントありがとうございます!応援とっても嬉しいです!これからも宜しくお願いします。 (2018年12月23日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
こゝろ - とっても面白いですね!これからも頑張って下さい!更新楽しみにしております!…あの、ドストエフスキーの一人称は「私」ではなく『ぼく』ではないでしょうか? (2018年12月23日 10時) (レス) id: 383b340c0d (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - かなさん» コメントありがとうございます。お読みになりましたか!そうですよね、共有せずにはいられないほど衝撃的ですよね……。そろそろ更新しようと考えておりますので是非お待ち下さい。 (2018年12月17日 20時) (レス) id: 78a130b852 (このIDを非表示/違反報告)
かな - 新刊読みました!!ヤバかったですね??この先の小説の続きも気になります!! (2018年12月17日 0時) (レス) id: 5a88057d9b (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - あやなさん、はじめまして。思いの込もったコメントをありがとうございます。こんなにも熱い応援をしてくださる方がいるんだと思うと胸が一杯になります。 銀魂の方も読んでくださってるんですね!本当に嬉しいです。これからも両作共々宜しくお願いします。 (2018年11月30日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2018年8月14日 9時