番外編―if 2― ページ46
誰に壊されるでもない不可侵の沈黙が部屋を包む。
部屋の外ではサァ、と風が吹いて雲が月を隠した。その折に太宰の声が響く。
「そんなに渇くのなら私が君に注ぎ続けてあげよう……喉が焼け付き爛れるような甘ったるい果実酒を――……」
暗闇の中で太宰がにやりと笑うのを感じる。
思わずAは急足で太宰から離れた。
「…………如何いう意味ですか」
少し焦燥と動揺の入り混じった彼女の声色。
「それを私に訊くかい?」
それに苦笑し乍らも太宰はまた一歩、一歩と近づいた。それに呼応して覚束無い足で退くA。
「……ふふ、何故逃げるんだい?」
暗闇で見えない太宰の表情。その愉快げな声だけが一層恐怖を煽る。
――何故?何故……。それは――……
問われたAは熟考した。しかし答は見つからない。
敢えて云うなれば、ただ恐ろしかったのだ。何かは判らない何かが。
そう、何かを本能的に悟ったのだ。“危険だ”と。
そして次の瞬間、思慮に傾くAの頰にすっと太宰の手が触れた。そのどろりとした感触に思わず退けば背中に触れるのは冷たい壁。
咄嗟に踏み出した先は太宰に阻まれた。
「君らしくないね……」
壁に手を突き、意地悪い声色で覗き込む。
そして頑なに目を合わせないAに問うた――。
「そんなに恐ろしいかい――私の欲は」
……欲?
思わず顔を上げたAの瞳を太宰は捕らえる。
「私は長らく疑問だったのだよ。
時に森さんやあの魔人に対して反逆紛いのことさえ出来る君が……」
そう語り乍ら、Aのセーラー服のタイに指をかけた。
「偶に見せる怯えた表情――……。一体、何に怯えているのか」
くすりと笑い乍ら、その結び目をゆっくりと解いていく。
「やめ――……っ」
目を剥き、それを振り払おうとしたAの手をいとも簡単に封じると、太宰はすっと目を細め、そして愉快だと云わんばかりの様相で云った。
「今やっと、君の怯える理由が判ったよ」
悪戯に笑い、解かれたタイをしゅるり、しゅるりと妖艶な音を響かせ乍ら引き抜く。
「君は他人の“欲”を惧れ、恐怖に駆られるのだね」
言葉を失ったAに妖しげな眼差しを注ぐ。
「例えばドストエフスキーの支配欲……森さんの独占欲……。
そして私の――――…………」
太宰はそう云い乍ら、抜き去ったタイに唇を寄せ――
接吻を落とした。
321人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ギラッフェ(プロフ) - こゝろさん» はじめまして。コメントありがとうございます!応援とっても嬉しいです!これからも宜しくお願いします。 (2018年12月23日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
こゝろ - とっても面白いですね!これからも頑張って下さい!更新楽しみにしております!…あの、ドストエフスキーの一人称は「私」ではなく『ぼく』ではないでしょうか? (2018年12月23日 10時) (レス) id: 383b340c0d (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - かなさん» コメントありがとうございます。お読みになりましたか!そうですよね、共有せずにはいられないほど衝撃的ですよね……。そろそろ更新しようと考えておりますので是非お待ち下さい。 (2018年12月17日 20時) (レス) id: 78a130b852 (このIDを非表示/違反報告)
かな - 新刊読みました!!ヤバかったですね??この先の小説の続きも気になります!! (2018年12月17日 0時) (レス) id: 5a88057d9b (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - あやなさん、はじめまして。思いの込もったコメントをありがとうございます。こんなにも熱い応援をしてくださる方がいるんだと思うと胸が一杯になります。 銀魂の方も読んでくださってるんですね!本当に嬉しいです。これからも両作共々宜しくお願いします。 (2018年11月30日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ギラッフェ | 作成日時:2018年8月14日 9時