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ep174 ページ41

与謝野女医の記憶に触れた私はその『不死聯隊』が如何なるものか直ぐさま理解した。
首領は彼女の異能を遣って兵士を瀕死にさせては完治させることを繰り返し、半永久的に戦場に立たせていたのだ。


そしてそこに私の異能が加われば、その戦場は悪夢を超えて何と云うのだろうか。

死ねば解放された筈のあの無限の戦場から、死んでさえも解放されない。それを知った兵士達は何を思うのだろうか。




“絶望とは死に至る病である。
自己の内なるこの病は、永遠に死ぬことであり、死ぬべくして死ねないことである。

それは死を死ぬことである”



嘗てそう語ったのはデンマークの哲学者、キルケゴールだった。

死ぬべくして死ねず、死さえも戦場へと繋がれた鎖を断ち切ることはできない。

その鎖に囚われた人間の心境を言い表すならば、悪夢も地獄もあまりに生温い。
それはきっと“絶望”と呼ぶのだろう。


死を以って己の過去や生き様を振り返り、そこに自らの存在価値を置く筈の人間という生物が、それを奪われたのなら――……

もはや、己の存在に価値など見出せるのだろうか。



私は途方も無い恐怖に耐え切れず、独り服の裾を握り締めていた。
その緊迫した空気を首領が震わす。



「だがね、与謝野君。福沢殿はそのことも承知で取引したのだよ」

「社長がそんなこと云う筈ない」


条件は探偵社員一人のマフィア移籍――それを福沢社長が了解したのは事実だ。隣で会話を聞いていたのだから間違いはない。
しかしその“社員一人”に例外が居たか如何かは私の知るところではなかった。



「いいや……福沢殿は『君を指名しても善い』と云った」




――嘘だ……


何も云わずとも、与謝野女医の胸中の声はいとも容易くその表情から読み取れた。

嘘――。
私もそれを信じたい。しかしあまりにも異質なこの状況ではそれもいさ判らない。事実無根を言葉にすべきでないことだけは明白だった。




 




「首領、お取り込み中失礼します」


その時、不意に響いた広津さんの声に部屋の空気は些か救われたのだった。



 

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ギラッフェ(プロフ) - こゝろさん» はじめまして。コメントありがとうございます!応援とっても嬉しいです!これからも宜しくお願いします。 (2018年12月23日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
こゝろ - とっても面白いですね!これからも頑張って下さい!更新楽しみにしております!…あの、ドストエフスキーの一人称は「私」ではなく『ぼく』ではないでしょうか? (2018年12月23日 10時) (レス) id: 383b340c0d (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - かなさん» コメントありがとうございます。お読みになりましたか!そうですよね、共有せずにはいられないほど衝撃的ですよね……。そろそろ更新しようと考えておりますので是非お待ち下さい。 (2018年12月17日 20時) (レス) id: 78a130b852 (このIDを非表示/違反報告)
かな - 新刊読みました!!ヤバかったですね??この先の小説の続きも気になります!! (2018年12月17日 0時) (レス) id: 5a88057d9b (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - あやなさん、はじめまして。思いの込もったコメントをありがとうございます。こんなにも熱い応援をしてくださる方がいるんだと思うと胸が一杯になります。 銀魂の方も読んでくださってるんですね!本当に嬉しいです。これからも両作共々宜しくお願いします。 (2018年11月30日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2018年8月14日 9時

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