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ep146 ページ5

―貴女 side―



私は薄暗い部屋の隅で息を潜めていた。手首に触れる手錠の冷たさを感じ乍ら――。
後ろ手に掛けられたその手錠は私の異能を封じる為のものだった。

其処へ乾いた靴音が近付く。
だが私はそちらへ顔を向けるでもなく、その靴音の主を見上げるでもなく……唯、茫然と地面を眺めていた。


「そんなに震えて……何を惧れているのですか?」


聞き慣れたその声で背筋が凍る。私は震える声で答えた。




「……何も、惧れてない……」



その瞬間、頸筋に衝撃を感じる。


「――ッ、ぅぐ……っ!」


ギリギリと頸を締め上げられて躯中が悲鳴をあげる。虚弱なあの体格からは想像もつかないような力で締め上げる彼の表情は恍惚としている。

私の口は酸素を求めて大きく開かれるがその目的は果たされず、喘ぎ声が空虚に響くだけだった。



「私に貴女の嘘が判らないとでも思いましたか?

さぁ、本当の答を教えて下さい。貴女は何を惧れているのですか?」



妖しく爛々とした瞳に貫かれ乍ら、私は絞り出すようにして答えた。


「――……君、が……怖い」


その答にフョードルは唇の隙間から笑いを零し、ぱっと私を解放する。

彼が私と視線を交えるようにしゃがみ込み、ふわりと風が起こった。満足げに細められた瞳と交差して呼吸が苦しくなる。


「えぇ、貴女に必要なのは私への畏怖……唯それだけです」

フョードルの狂気で塗り込められたような紫の瞳。其処に映る自分の瞳。どちらにも光など宿っていなかった。

すらりと伸びた手が髪を分けて肩に触れる。びくりと肩を震わせた私を見て彼は唇を歪めて笑った。



「却説、また貴女への依頼が来ましたよ。行きましょうか」

そう云って私を優しく立ち上がらせる。しかしその手つきさえも恐怖でしかない。
酷い眩暈と吐き気に襲われた侭、私は彼に連れられて薄暗い部屋を出た。








「……今回の標的は……?」


私はフョードルの元に届いた依頼を果たす為の道具だった。その中身は決まって他組織の殲滅や暗殺。
人並みの罪悪感を抱えつつも私はフョードルの命令に抗うことはできなかった。……否、抗おうなどとは露とも思ったことがなかった。


光の欠落した瞳で宙を眺める私にフョードルは答えた。





「ポートマフィア首領の暗殺です」









 









そう、これが凡ての終わりにして始まりだったのだ。





 

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ギラッフェ(プロフ) - こゝろさん» はじめまして。コメントありがとうございます!応援とっても嬉しいです!これからも宜しくお願いします。 (2018年12月23日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
こゝろ - とっても面白いですね!これからも頑張って下さい!更新楽しみにしております!…あの、ドストエフスキーの一人称は「私」ではなく『ぼく』ではないでしょうか? (2018年12月23日 10時) (レス) id: 383b340c0d (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - かなさん» コメントありがとうございます。お読みになりましたか!そうですよね、共有せずにはいられないほど衝撃的ですよね……。そろそろ更新しようと考えておりますので是非お待ち下さい。 (2018年12月17日 20時) (レス) id: 78a130b852 (このIDを非表示/違反報告)
かな - 新刊読みました!!ヤバかったですね??この先の小説の続きも気になります!! (2018年12月17日 0時) (レス) id: 5a88057d9b (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - あやなさん、はじめまして。思いの込もったコメントをありがとうございます。こんなにも熱い応援をしてくださる方がいるんだと思うと胸が一杯になります。 銀魂の方も読んでくださってるんですね!本当に嬉しいです。これからも両作共々宜しくお願いします。 (2018年11月30日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2018年8月14日 9時

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