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ep170 ページ37

―貴女side―


目の前には負傷、病魔に苦しむ数多の男達が臥せっている。

……夢か、と私は悟った。

しかし周りを見渡せば、夢とは思えないほどの生々しさに喉が絞まった。


まさに戦場だ。……否。事実、戦場なのだろう。


そう思った私の横に軍医服の男が立った。ふと見上げた先に思わず息を呑んで膠着する。


――……首領……。



「やぁ与謝野君、治療は順調かね?」


私を見詰め乍ら問う若かりし首領。

そうか……これは与謝野女医の記憶。私はそれを追体験しているのだ。
しかしそうと判れば、かえってこの状況に違和感を感じざるを得ない。


与謝野女医の異能が在りながら、何故これほどにも戦場が荒廃しているのか。

力無く項垂れ、その眼に光を宿さない兵士の数々。中には虚ろな目を泳がせ、時に空虚な笑いを零す者もいた。
その異様さに背筋が寒くなる。


 


「……殺してくれ」


 


ぽつりと零れた言葉に私は振り返った。

「殺してくれ……殺してくれ殺してくれ殺してくれ」

呪詛のような言葉に混乱を隠せない。


「もう許してくれ……これ以上戦えない……!」


その悲痛な叫びに私はやっと理解した。
ここは“戦闘不能”が失われた――死ぬまで戦い続ける他、道の無い戦場なのだと。

そしてそれは云うまでもなく、与謝野女医の異能によって……。


「さぁ、治療しなさい」

首領の言葉に、厭だと与謝野女医の幼い声が響く。


「妾は目の前の命を救いたいだけだ!」

「そうか……」

 


パンッ――……



その言葉を嘲笑うように鳴った銃声。目の前の兵士は一瞬、何が起こったか分からず目を見開いた後――……


「ぎゃあああああああああッ!!!」


痛みに絶叫した。


「これで瀕死だ。やれ」


こんなものを戦争と呼べるのか……?
与謝野女医の異能で治療できるのは躯だけだ。治療の度に精神はすり減らされ、心は削ぎ落とされ……荒み続ける。誰も救われない。


「未だやれないと云うのならもう一発撃っても善いのだよ?或いはここに居る全員に一発ずつ撃ち込んでいくのでも構わない」



やめろ。

こんなの人間相手にやって善いことじゃない。


「さぁ、早く答を選び給え」

引き金に指をかける音――……



やめろ。

やめろ……やめろ……


でも――……そう開きかけた与謝野女医の口が、がしりと塞がれる。


「――……ッ!」

「時間切れだ」



鎌の様に吊り上がった唇に脳が凍りつく。



「やめろッ!!」



 

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ギラッフェ(プロフ) - こゝろさん» はじめまして。コメントありがとうございます!応援とっても嬉しいです!これからも宜しくお願いします。 (2018年12月23日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
こゝろ - とっても面白いですね!これからも頑張って下さい!更新楽しみにしております!…あの、ドストエフスキーの一人称は「私」ではなく『ぼく』ではないでしょうか? (2018年12月23日 10時) (レス) id: 383b340c0d (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - かなさん» コメントありがとうございます。お読みになりましたか!そうですよね、共有せずにはいられないほど衝撃的ですよね……。そろそろ更新しようと考えておりますので是非お待ち下さい。 (2018年12月17日 20時) (レス) id: 78a130b852 (このIDを非表示/違反報告)
かな - 新刊読みました!!ヤバかったですね??この先の小説の続きも気になります!! (2018年12月17日 0時) (レス) id: 5a88057d9b (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - あやなさん、はじめまして。思いの込もったコメントをありがとうございます。こんなにも熱い応援をしてくださる方がいるんだと思うと胸が一杯になります。 銀魂の方も読んでくださってるんですね!本当に嬉しいです。これからも両作共々宜しくお願いします。 (2018年11月30日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2018年8月14日 9時

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