番外編―昇降機にて― ページ33
「ロミオが何故ロミオなのか――
……そのようなこと本人に尋ねても御門違い」
ふふ、と唇の隙間から笑いが零れる。
ロミオは何故ロミオなのか。何を以ってロミオなのか……。
バークリーに云わせればその答は簡単なこと。
「ジュリエットがその男をロミオと知覚したいから彼はロミオなのです」
愛だの何だのと云ってはみるが、それ以前に人間は“存在”が何たるものかさえ知りやしない。
理解が追いついていないのか、斜め上の宙を見上げて膠着状態の樋口さん。そんな彼女を尾崎幹部はとても不憫そうに見ていた。
「人間は愛情をまるでこの世で最も崇高な精神活動のように形容します。ですがその実、愛など所詮この世で最も傍迷惑な虚妄に過ぎないということです」
するとその時、再び昇降機が停止し扉が開く。
「そう!この世は最初から空虚!生の意味も幸福も愛さえも……脳が見せる信号に過ぎない!」
うわははは、とけたたましい笑い声と共に乗り込んできた梶井さんに会釈をする。
「君……案外、話の判る奴みたいだね?」
「……梶井さんにそう云って頂けるとは光栄ですね」
とは云いつつも、こんな処で意気投合して仕舞うことに些か複雑な感情を抱くのは云うまでもないだろう。
そして昇降機はまた降下を始めた。
「……送迎役、貴女はつまり恋や愛など只の勘違いや思い込みだと云いたいのですか?」
「えぇ、しかもその妄信の対象まで巻き込む点でとてもタチが悪いと云えるでしょうね」
「それは違います!その人のことを考えると心が温かくなる……それが恋です!それが愛です!」
芥川さんへの感情を否定されたからなのか、樋口さんはムキになって云う。だがそこに梶井さんが割って入った。
「じゃあ聞くけど、君が今乗っていると思ってるこの昇降機……なんで昇降機だと思う?」
「……え?」
「そして君は今、昇降機が降下していると感じているだろ?でもそれは君がそう知覚したいからそう感じてるだけだ。その証拠は?」
「……しょ、証拠……?」
「さらに、君は今それ知覚している自分が存在していると思ってるだろ?でもそれはそう信じたいからだ。君の存在の証拠は?」
眼をぐるぐると回す樋口さん。私は隣でその反応を心底愉しんでいた。
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ギラッフェ(プロフ) - こゝろさん» はじめまして。コメントありがとうございます!応援とっても嬉しいです!これからも宜しくお願いします。 (2018年12月23日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
こゝろ - とっても面白いですね!これからも頑張って下さい!更新楽しみにしております!…あの、ドストエフスキーの一人称は「私」ではなく『ぼく』ではないでしょうか? (2018年12月23日 10時) (レス) id: 383b340c0d (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - かなさん» コメントありがとうございます。お読みになりましたか!そうですよね、共有せずにはいられないほど衝撃的ですよね……。そろそろ更新しようと考えておりますので是非お待ち下さい。 (2018年12月17日 20時) (レス) id: 78a130b852 (このIDを非表示/違反報告)
かな - 新刊読みました!!ヤバかったですね??この先の小説の続きも気になります!! (2018年12月17日 0時) (レス) id: 5a88057d9b (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - あやなさん、はじめまして。思いの込もったコメントをありがとうございます。こんなにも熱い応援をしてくださる方がいるんだと思うと胸が一杯になります。 銀魂の方も読んでくださってるんですね!本当に嬉しいです。これからも両作共々宜しくお願いします。 (2018年11月30日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2018年8月14日 9時