ep145 ページ4
―no side―
「ぅ、ぐあぁぁあああああっ！」
Aの呻き声が悲鳴へと変わっていく。
「厭……厭、厭だ……っ、君の元には……戻ら、ない……！」
喉の隙間からひゅっ、と搔き消えそうな音を鳴らして叫ぶ。
肩を震わせ乍ら眼を見開く姿はいつもの彼女ではない。見開きすぎた目尻は裂け、血が流れ出している。それにも関わらず、彼女の眼は一層強く開かれんとしていた。
そして
「来るなッ！！」
Aは最早、少女の力とは思えない強さで目の前の乱歩を突き飛ばす。
彼は弾かれた様に反対側の壁へと吹き飛ばされ背中を強打した。
痛みに顔を顰め、動けずにいる彼の方へとゆらりと立ち上がって近づいて行く彼女。
「厭だ……厭だ厭だ厭だ厭だ厭だ――……ゲホッ」
だが、うわ言のように「厭だ」と繰り返していた時、突如として血を吐く。
二度、三度と吐血しながらも彼女は懐から小銃を取り出した。
「私は帰らない……。君が……君が死ねよフョードル！」
修羅のような表情で叫んだ彼女は小銃を乱歩へと構え、引き金を引かんとした。
其処へ――――
ダンッと轟音がして医務室の扉が弾き飛び、人影が駆け込んだ。そしてその人影が叫ぶ。
「異能力――――『人間失格』ッ！」
すると糸が切れたようにばたりと意識を無くした彼女。その人影――太宰治は床に倒れかけた彼女を受け止めた。
暫くの静寂の後、太宰が口を開く。
「……他にも方法はあった筈です」
乱歩を睨んだ彼の瞳は黒々として怒りが渦巻いていた。
「……否、此れが最も確実な方法だ」
「その結果が此れでも……？」
太宰の問いに唇を噛み締める乱歩。彼は眼を瞑り、深く息を吸い、そして云った。
「そうだ」
「……。」
二人は静かに睨み合い、再び沈黙がその場を支配する。
そして今度は乱歩が口を開いた。
「太宰、お前は彼女がこうなるのを惧れてこの手段を取らなかった。それは正しい」
論旨の掌返しに眉を顰めた太宰。
すると乱歩はふと哀しげな表情を見せて探偵帽を深く被り直した。
「……悪役は僕だけで善い」
太宰は思わず目を見開く。そんな彼を気にも留めず、乱歩は早足で医務室を去って行った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 321人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ギラッフェ(プロフ) - こゝろさん» はじめまして。コメントありがとうございます！応援とっても嬉しいです！これからも宜しくお願いします。 (2018年12月23日 17時) (
レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
こゝろ - とっても面白いですね！これからも頑張って下さい！更新楽しみにしております！…あの、ドストエフスキーの一人称は「私」ではなく『ぼく』ではないでしょうか？ (2018年12月23日 10時) (レス) id: 383b340c0d (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - かなさん» コメントありがとうございます。お読みになりましたか！そうですよね、共有せずにはいられないほど衝撃的ですよね……。そろそろ更新しようと考えておりますので是非お待ち下さい。 (2018年12月17日 20時) (レス) id: 78a130b852 (このIDを非表示/違反報告)
かな - 新刊読みました！！ヤバかったですね？？この先の小説の続きも気になります！！ (2018年12月17日 0時) (レス) id: 5a88057d9b (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - あやなさん、はじめまして。思いの込もったコメントをありがとうございます。こんなにも熱い応援をしてくださる方がいるんだと思うと胸が一杯になります。 銀魂の方も読んでくださってるんですね！本当に嬉しいです。これからも両作共々宜しくお願いします。 (2018年11月30日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ギラッフェ
| 作成日時：2018年8月14日 9時
