ep163 ページ22
執務室へと戻り、ゆっくりと扉を閉め切った。
「首領、本当のことを教えて頂けませんか?」
振り返って問えば、「本当のこととは?」と惚けた顔をする首領。
「彼等にはああ云いましたが、本当は目星がついているんじゃないですか……?太宰さんの居場所」
「……何故そう思うのかね?」
すっと表情を正して問う彼に、私の読みは当たったと確信する。
「今の貴方の表情が証拠です」
「カマをかけられたか……」
首領はそう云って溜息を吐きつつも、紅茶を差し出して私の正面に腰をかけた。
「太宰君の経歴、元マフィア幹部という肩書、そしてあの明晰さ……凡てを封じようと思えば収容できる場所はたった一つだ」
彼ほどの人間を捕らえておくことができる場所。
「それは…………ムルソーだ」
ムルソー……?
聞き慣れない単語に私は紅茶を飲み乍ら疑問符を浮かべた。
「欧州の異能刑務所。存在自体が国家機密の鉄壁の檻だよ」
場所すらも不明だというその檻に思わず絶句する。不可能だ。彼と接触するのも、脱出を助けるのも……何もかも。
思わず天を仰ぎそうになったその時――
「欧州政府の上層部しかその場所を知らないらしい」
その言葉に私は眼を光らせた。
「……彼等は知っているんですね?」
声色の変わった私の問いを首領は神妙な表情で諌めた。
「莫迦なことは考えない方が善い」
確かにそうだ。
しかしその莫迦なことをしなければ太宰さんが助からないのなら――
「その上層部に私が接触して異能を使えば操れます。脱獄は格段に容易になる」
首領を見上げるが、彼は冷たい眼差しの侭云った。
「君には無理だ」
「何故です?」
「それは――――……」
首領の声を聞き乍ら、私は指先に違和感を感じる。
……力が入らない。
それに気付くや否や掌からカップが滑り落ちた。陶器の割れる音が急に遠くなって、突如激しい睡魔に襲われる。
平衡感覚を失い、力無く床に倒れ、やっと私は現状を把握した。
「……紅茶に、何か……入れましたね……?」
首領はそう問うた私を歯牙にもかけず見下ろす。
「な、ぜ……」
「態々君が自ら飛んで火に入る必要はないのだよ。あくまでこの惨劇の主役は探偵社なのだから」
「……人で、なし……」
しかし首領は私の暴言を一笑に付して流し去り、悠々と紅茶を味わう。
私はそれを見上げ乍ら、沼のような睡魔に沈んでいった。
「君を失う訳にはいかないのだよ……何としても」
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ギラッフェ(プロフ) - こゝろさん» はじめまして。コメントありがとうございます!応援とっても嬉しいです!これからも宜しくお願いします。 (2018年12月23日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
こゝろ - とっても面白いですね!これからも頑張って下さい!更新楽しみにしております!…あの、ドストエフスキーの一人称は「私」ではなく『ぼく』ではないでしょうか? (2018年12月23日 10時) (レス) id: 383b340c0d (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - かなさん» コメントありがとうございます。お読みになりましたか!そうですよね、共有せずにはいられないほど衝撃的ですよね……。そろそろ更新しようと考えておりますので是非お待ち下さい。 (2018年12月17日 20時) (レス) id: 78a130b852 (このIDを非表示/違反報告)
かな - 新刊読みました!!ヤバかったですね??この先の小説の続きも気になります!! (2018年12月17日 0時) (レス) id: 5a88057d9b (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - あやなさん、はじめまして。思いの込もったコメントをありがとうございます。こんなにも熱い応援をしてくださる方がいるんだと思うと胸が一杯になります。 銀魂の方も読んでくださってるんですね!本当に嬉しいです。これからも両作共々宜しくお願いします。 (2018年11月30日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2018年8月14日 9時