ep155 ページ14
叩敲をして執務室に入ると首領が山のように積まれた書類に次々と目を通していた。
「首領、記憶が戻りました」
「…………」
紅茶を淹れ乍ら何でもないことのように云ってみる。好奇心に負けてちらりと首領を見れば間の抜けた表情で唖然としていた。
「……太宰君かね?」
「と云うよりは乱歩さんの功労賞ですかね」
私が事のあらましを語り始めると、首領は椅子に背を預け乍ら聞いていた。一通り語り終えると首領は私に尋ねる。
「君は如何するのかね……?」
如何するも何も答は決まっていた。
「私は“ポートマフィアの”最終兵器です」
そう云って自室に戻る。
「善かったじゃねぇか」
灯を点けてふと見れば、私の定位置に素敵帽子の彼がいた。
……首領とグルか、と胸中で悪態吐き乍らも礼は云う。
「……どうも」
私は仕方なくもう一つの椅子に腰をかける。ふと見た中原幹部の表情に他意はない。何処まで善い人なのだろうか、この人は……。
椅子から立って彼の分の紅茶を淹れ、机に置いた。それを一口味わってふぅと息を吐いた中原幹部は「――にしても」と口火を切る。
「もう少しマシになんねぇのか、手前の部屋は……」
じとりとした眼差しで私の部屋を見回す彼。
此の部屋の大部分を占めているのは本棚と其処に仕舞い切れず溢れた数多の本。他にある物と云えば最低限の家具だ。
「中原幹部、エントロピーってご存知ですか?」
「またお得意の哲学か……?」
「いえ、これは熱力学または統計力学の分野です」
ますます意味不明だとぼやき乍ら彼はまたは紅茶を一口。
「エントロピーとは乱雑さを表す物理量です」
物質はエントロピーの増大する方向、つまりは乱雑な方向へと移動する。
「実際、宇宙はエントロピーが増大するように人間の気付かない内に拡散しているんです。その方がエネルギーが安定するから」
未だ何が何やら、といった様子で頭に疑問符を浮かべている中原幹部に私は云った。
「つまり、物は乱雑に置かれている方がエネルギー的に安定するんですよ」
「……敢えて汚なくしてるって訳か」
私が頷くと彼は盛大な溜息を吐く。
「云ってる事が梶井と大差ねぇぞ」
「それは困りましたね」
大袈裟に肩を竦めると、部屋は笑いに包まれた。
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ギラッフェ(プロフ) - こゝろさん» はじめまして。コメントありがとうございます!応援とっても嬉しいです!これからも宜しくお願いします。 (2018年12月23日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
こゝろ - とっても面白いですね!これからも頑張って下さい!更新楽しみにしております!…あの、ドストエフスキーの一人称は「私」ではなく『ぼく』ではないでしょうか? (2018年12月23日 10時) (レス) id: 383b340c0d (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - かなさん» コメントありがとうございます。お読みになりましたか!そうですよね、共有せずにはいられないほど衝撃的ですよね……。そろそろ更新しようと考えておりますので是非お待ち下さい。 (2018年12月17日 20時) (レス) id: 78a130b852 (このIDを非表示/違反報告)
かな - 新刊読みました!!ヤバかったですね??この先の小説の続きも気になります!! (2018年12月17日 0時) (レス) id: 5a88057d9b (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - あやなさん、はじめまして。思いの込もったコメントをありがとうございます。こんなにも熱い応援をしてくださる方がいるんだと思うと胸が一杯になります。 銀魂の方も読んでくださってるんですね!本当に嬉しいです。これからも両作共々宜しくお願いします。 (2018年11月30日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2018年8月14日 9時